表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻作業進行中、書いてて凄いたのしかったです、読者の皆にはごめんね】  作者: しば犬部隊
2023お正月短編 ゲームで遊ぼう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/308

2022年 年越し短編【アレフ・プレイ・ゲームその1 ”ソフィ・M・クラークの決意”】




〜西暦2028年、冬に限りなく近い秋のいつか、バベル島、合衆国街、ハイウエスト地区にて〜

 


「う、ああああ……ああああああ……」



 ある冬の日のこと、味山只人は号泣していた。



 ここは、バベル島、合衆国街のハイウエスト地区。坪単価1000万円を超える世界一土地の高い高級地。




 指定探索者、ソフィ・M・クラークの家、真っ暗なシアタールームの中で男泣き。




「あ、アジヤマ? キミ、ワタシの家の留守番してくれるのはいいんだけど、え? なに? 泣いてるのかい?」




 定例のチームミーティング、という名の飲み会の会場の家主、ソフィ・M・クラークが用事を済ませ帰ってきた。



 早めに家にきていた味山に留守番を頼んで帰宅した所、このありさまだ。




「うばあああああ、ぼんあ。こんあ、こんなのってねえよ……MIYATANI神がよおお、なんでだよおおおおお」




「うわ、マジ泣きしてる。ふむ、困った。今日はあれかい? ワタシがツッコミかい? キミがボケ続けるのかい? そうだね、普段キミやグレンばかりが苦労してツッコんでくれてるからね、いいさ、たまには付き合うさ。何があったんだい? ……ていうか、キミ、これ、ワタシのシアターセットで何を視て……ゲーム?」



 ソフィがうずくまる味山の近くに置かれたゲームハードの存在に気付く。




 いつのまにかご丁寧に、数百万円かけて揃えたシアターセットはゲーム機と繋がれていた。





「ばいふびーど、名作すぎるううううう」



「めんどうだな。ほら、落ち着いて。キミの好きなムツヤサイダーだ。飲むといい。ハニーバーもあるよ」



 全然話にならない様子の味山に対して、ソフィがお菓子と炭酸ジュースを与える。対応が子どもへのそれと同じ。


だがーー。



「具ラーク、あいしてる」



味山には効果覿面、すぐに復活した。




「そりゃどうも。で? そろそろまともに話せるかな?」



「あー、美味い。一息ついた、悪い。ちょうどすげえ泣ける感じの所まで進めちまってよー。いや、やべえ。ホームアウェイソフトの新作、”ライフ・フィールド”やばすぎるわ」



「ゲームか。何か大きな荷物を持ってきていたと思ったらそれだったよか。まったく心配させるなよ、何かあったと思ったじゃないか。……指定探索者の家で留守番ついでにがっつりゲーム機持ち込む奴はキミくらいのものだよ」



「悪い、最近このゲームにドはまりしててよお。貴崎が勧めてくれて。最初は暇つぶし程度だったんだけど、もう最近はライフワークになっててよお」



「リン・キサキがキミに? もうその組み合わせだけでアレタの機嫌が悪くなる響きだね。だが……ふむ。これ、ゲームの映像かい? 凄いな、綺麗だ」



 部屋一面を飾る超大型スクリーンに映し出される4K映像の織りなすレンガ造りの街並みにソフィが意識を向ける。



「お! 興味あんのか!? クラーク!」



「うわ、キミ、そんな目きらきらしてた? いいや、あいにく、仕事がらビデオゲームは性に合わなくてね。探索者の仕事の方がよほど空想的で、現実離れしているだろう? いまさらゲームの中でドラゴンと戦ってもね……」



 ぷひーとソフィがため息をつく。



 味山はしかし、見逃さない、ゲーマーとしての本能が気づいた。



 鼻息を吐きながらも、このアルビノ赤髪美少女、さっきからちらちらとみている。シアターに映るゲーム画面。オープンなフィールド、世界をそのまま切り取ったかのような圧倒的な映像美が為す、美しいゲームの中の街並みを。




 TIPS€ソフィ・M・クラークは"ライフ・フィールド"の美しい世界に興味があるようだ。沼に墜とせるぞ




 味山だけが聴くことのできるヒントが彼の耳に届いた。



「……そのドラゴンと戦う方法が無限にあったらどう戦う? もしくは戦わなくても勝つ方法とか考えたくないか?」



「うん?」




「”ライフ・フィールド”はその映像美やキャラ造形の良さも最高だが、素晴らしい点はいくつもある。その中でも売りなのは圧倒的な自由度の高さ。ドラゴン1匹斃すのにも、プレイヤーの数だけ選択が存在する。――知識や考察、インテリジェンス次第で自分よりはるか強大な敵とも渡り合えるようになるんだが、興味ないか?」




「せ、選択肢って大仰な。し、知ってるぞ? あれだろ? ガンガン行こうぜとか、命大事にとか――」




 ソフィのゲーム知識はだいぶ偏っている。ゲームのことを全部ファミコンと呼ぶお母さんと大差はない。



 だが、味山只人の暗黒のサラリーマン営業時代に培った技能がここに生きる。





「ゴブリンが根城にしている旧砦跡地な。その砦に設置されてあるバリスタや大砲、なぜか全部内側向きだったんだ」




「なに?」




 この男、プレゼンが割と上手かった。



 一言で、ソフィ・M・クラークの興味を引く。



「クラーク先生、想像してくれ。アンタが依頼を受けた冒険者で、古い砦に住む多数の人間を狩り慣れたゴブリンの群れを掃討しなければならないとして。その場所の偵察を行った」



「……」



 いつのまにか、ソフィは部屋のソファに座り、味山の話を黙って聞きだしている。



「ギルドの予想通り、ああ、ギルドってのはいわば探索者組合みたいなもんな? まあ、そのギルドの言う通り、だ。戦争中に放棄された古砦はゴブリンに占拠されてる。こっちには仲間もいるが、多勢に無勢。もはや軍隊による駆除でないとつり合いのとれない状況、でもこっちの稼ぎや評価を考えるとどうしてもここは自分たちの力で依頼をクリアしたい」



「続けて」



 ――勝った。味山は確信する。すでに、間抜けの足を沼に墜とせたと。後はひきずりこむだけ。




「そこで、気づく。砦の防衛機構は全て内向きについていた。もちろん古砦だ。もうまともに使える代物は残っちゃいない。さあ、クラーク、この理由なんだと思う? どうして外敵に備えるはずの砦の防衛機構が内側に――」「その砦、本当は砦じゃないんじゃあないかい? もっとこう、別の、そう何かを、封じ込める為の施設だったとか――」



 パチン。ソフィが指を鳴らす。紅い瞳のゲーム画面の方を見つめる時間がどんどん長くなっていく。



「イグザクトリー! congratulation! さすがクラーク先生!」



「ふっ、簡単な推理だよ……いや、待て、では、なんだい? その砦は一体何を封印して、いや、何に備えていたんだい? そのゴブリンたちと何か関係が――」



「……」




「あ」




 味山がすっと、無言でクラークにゲーム機のコントローラーを差し出す。



 クロージング。



 商談の最後に余計な言葉はいらない。



 暗黒のリーマン営業時代に培った営業系社会人必須のテクニック。人が自らの行動を決めるときに最も重要なのは自分の意志だ。



 人に選ばされたのではなく、これは自分が選んだのだと顧客にはそう認識させる必要がある。ゆえの無言--。




「え、いや、え」



「……"選べ、己の人生を"」



 味山が呟いたのは”ライブ・フィールド”の製品キャッチコピー。今、まさにソフィは選ぼうとしている。




「あ、味山、その、いや、今からビデオゲームは。わ。ワタシはそもそも、あまりこういう他人の創作物はあまり……」



「……古砦、王都の図書館、焚書、村の古老、伝承、封印、古い異神の伝説――」



「あっ、ああ、あっ」



 ソフィが指定探索者としての覚醒した身体能力を遺憾なく発揮し、ソファから跳躍。味山からコントローラーを奪い取り――。




「――”そこにあるのは世界とキミ”」




 またぼそり、味山が暗唱しているゲーム雑誌での紹介文を呟き――。




「くっ、いいかい、よく聞け! アジヤマタダヒト! 一回だけだ! そして10分だけ! 10分だけ遊んでやるとも! それっきりだ、ワタシがこのゲームに付き合うのはね!」




 ソフィが顔を赤くしながら味山を指さす、ちょこんとクッションを抱え、しかししっかりコントローラーを確保した状態で。




 にちゃあ、と味山が笑って。



「ああ、わかってるよ、クラーク」



 お前がもう沼に落ちていることはな。味山は汚い笑顔を浮かべたまま、操作方法を聞いてくるソフィにうなずき続けてた。













 ◇◇◇◇



 ~1時間後~




「ばああああああああ、う、うわあああああああ、な、なんで!? なんでだああああ。ワタシは、ワタシは只、只、キミとこの先も冒険を! キミと一緒にいたいだけだったのにいいいい! 覚えてすら、キミの記憶すら消えるなんてえええええ! ワタシを、ワタシを置いていくなよう。行くな、いくなあああああああ。もばあああああああああああああああああああああ」




「わかるよ、クラーク。でも、こうするしかないんだ。古砦に眠る異神の同位体であるアイツは。でも誇ってくれって言ったじゃないか。この選択をした自分を誇ってくれって。そして、お前の友人である私を誇ってくれって。だから、俺たちが泣くのは、うっ。7週目でも、キャラロストがきつすぎる」





 クッションに顔をうずめ、泣き叫ぶのは合衆国が誇る国家戦力、指定探索者が一人、ソフィ・M・クラーク。それを味山がなだめつつも、観戦していた彼もまたティッシュで鼻をかんでいる。




 恐るべきは”ライフ・フィールド”。



 その美麗な映像。スタイリッシュかつ戦略的でいて泥臭く奥深く、育成の妙を兼ね備えたアクションバトル、自由度の高い冒険、数々の魅力を兼ね備えた歴史に残る覇権神ゲーであるが、最も恐ろしいのは――。




「――ワタシは諦めない」



「おっ」



「ワタシは決めたぞ、なんとしても、彼女を救って見せる。最初はただの冒険者ギルドの同僚だった……しかし、冒険を共にした誇り高く、優しく、そしてワタシに微笑んでくれた彼女を! 意地っ張りでプライドが高くて! でも、寂しがり屋の彼女を! ワタシのことをはじめての友達と言ってくれた彼女を!!」




 キャラが良すぎるのだ。




 豊富かつ自由度の高いシナリオとストーリーラインの中でプレイヤーは数々のまるで生きていると見まごうほどのキャラクターたちと交流し、絆を深めていくことが出来る。


 そこまでなら良かったのだが――。





「ワタシが彼女を死の運命から救って見せる!」



 めちゃくちゃキャラ死ぬ。



 ネットでは”推しが出来るのはつまり看取ることが確定したのと同義”というミームが流行るほどに。




「おお、次はどうする、クラーク!」



「まずは王都図書館での調査をもっと念入りに! あの龍血教会の司祭! アイツが怪しい!」



 豊富なセーブポイントとリプレイ力の高さ。数多の信者を作り出した神ゲーに指定探索者もついに。




 アレフチーム内、沼生存者残り2名--。




【アレフ・プレイ・ゲームその2】”グレン・ウォーカーの悲恋"に続く。








2022年はたくさん読んで頂きありがとうございました。2023年はついに、凡人探索者の書籍版が発売されます。


5割以上書き下ろし、しかし味山達はいつも通りの味山たちなので既読の方も新規の方も超楽しめるようにしています。


色々告知しておりますので良ければしば犬部隊、Twitterで検索して是非フォローして頂ければ幸いです!


次回更新は2023年1月1日のお昼!


ダンワルも引き続き宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
凡人呪術師のライフフィールドこの段階で出てたのか
[良い点] なんかすごく強欲そうなアイテムが! 何度読んでも楽しい!
[良い点] >そうだね、普段キミやグレンばかりが苦労してツッコんでくれてるからね、いいさ、たまには付き合うさ。何があったんだい? 優しくて可愛い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ