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凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ 【書籍6巻刊行予定、作業中、完全書下ろし】  作者: しば犬部隊
最終章 凡人探索者たちのたのしい現代ダンジョンライフ

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178/306

トゥルーED【焚き火】



条件達成


味山只人が全てを諦めず、全てを拾い、前へ進む

 




 〜???〜





 ここは清らかな水が流れる土地。



「キュッキュッマ! マ!」



「ぼう! ぼぼ! ぼ!」



 カッパと原人が今日も魚の取り分でケンカを始め、相撲でその決着をつけようとしている愉快な河原。




「はは! 九千坊、踏ん張れ踏ん張れ、じゃわよ、今回は火はなしぞ!」




 その様子を切り株のイスに座り、器で酒を煽りながら見物する骸骨が1人。



 彼らこそ、神秘の残り滓。惑星の進歩、人類の繁栄が進む中、忘れ去られ老いさばり、それでも残りかすとして残っていた古きもの達。




「ギュマ!!」



 ミニチュアカッパ、しかしその威は西国に響き渡て、九千坊。水の神、嵐すら、大荒れの海すら乗り越える音に聞こえし大化生。




「ふむ、美味い。文字通り、骨身に染みるな……」



 盃で酒を飲み、飲んだ端からスカスカのガイコツ面からビシャビシャこぼし続ける着物ガイコツ。



 間抜けな絵面、しかしその武はついに嵐の龍すらまっぷたつ。


 鬼裂、鬼に堕ちし平安の世、最恐の鬼狩り。善と悪、その両方を内包しそれでも人の営みを愛した鬼の武人。




「ぼ?! ぼんぼやーじゅ?!」



 あはれ、あはれ。カッパに投げ飛ばされたけむくじゃら。



 ぼちゃんと清い水の流れに落ち入る。



「かかかっ! 今回は負けたな、じゃわよ! 九千坊、主の勝ちぞ!」




「キュキュア! キューキュッキュッキュ!」



 小さなかっぱが腰に手を当て、たからかに鳴き声をあげる。本人はかなり威厳あるつもりだが残念ながら、その姿ではゆるキャラにしか見えない。





「ぼう」



 ばちゃり、けむくじゃら、始まりの火葬者、凡人がつけたその名前はジャワ。



 空が不服そうに身体を震わせて水を弾き飛ばしながら、パチパチ燃える焚き火に手をかざす。




「くく、じゃわよ、そう怒るな。かっぱは相撲が好きでな。以前お主にしてやられたのを根に持ってたんじゃろうて」




「キュキュ、マ!」



 かっぱがてちてち、こちらに歩む。



 同じように火を囲み、身体を暖め始めた。




「ぼおう……」



「キュウ……」



「む? どうした? ……ああ、あれか」




 肩を落としたけむくじゃらとかっぱ。



 2匹の目線の先を追い、骸骨が頷く。




 青々とした山野、清流を濾す大地、木々。



 それが枯れつつあるのだ。彼らの友人、彼らの主。それが探索を全うした代償がついに。





 彼らは良い。己が既に終わった存在と受け入れ、それでも力を貸してやりたい友人の為にここに在る、いつ終わってもいい。それが彼ら、神秘の残り滓たちの総意。




「きゅきゅま」



「ぼおう」



 だからこそ、かっぱとけむくじゃらは肩を落とす。



 その友人の終わりが近いことに。その友人に報いることが出来ないことに。




 ぱちり、ぱちり。



 火が、弾けた。




「くく、なに、そう気落ちすることはないぞ、九千坊、じゃわよ」




「きゅ?」



「ぼ?」




「なに、大丈夫さ。我らが友人、我らが主の終わりには近い。だが、我らは知っている。友人とよく似た男の最期を。その誇り高き生き様を見たではないか」




 骸骨が、川原のほとを指差す。




 そこには、丸いピカピカした石、九千坊が川底から攫い、鬼裂が削り、ジャワが磨いた綺麗な石が3つ縦に積まれていた。




 美しい、御影石のようなーー





「だからな、我らは信じよう。我らは期待しよう、我らは備えよう。ああ、我らの友人には敵が多い。だが、我らだけは最期まで、共に、な」




「きゅ」



「ぼう」



 2匹のマスコットが御影石に手を合わす。


 もうここにいない、確かにいた彼らの仲間に。



 彼らの主によく似て、しかし、確かに違う1人のヒトへ。





「安心せよ、黒もや。味山只人には我らがついとる。死してなお、この世に残る、しぶとき、残りカスが、のう」



「ぼう」



「きゅ」




 そこは、清らかな水が流れる場所。



 水が沸き、水が砕け、流れいづる。




 彼らはそこで時を待つ、再びの戦い、再びの探索。



 だが、それが始まるまではせめて。




 静かに、清らかな水とともに、安らぎを、誇り高き敗北者へとせめてーー





 ……………

 ……

 …




 〜現代ダンジョン・バベルの大穴の深いところ。少なくとも人類未到達階層にて〜








「むぐ、あ、これ、美味え。驚くほどに意外だ」




 ぱちり、焚き火が僅かにはぜた。



 広がる霧の海の中、ぽっかり浮かび、ゆらゆら揺れるオレンジ色の火。




 それをアレフチームがのんびりと囲む。





 木の枝を削って作った串に刺したシイタケみたいなキノコ。



 遠火でじっくり焼いて汁が垂れているそれを口に運ぶ。ほこほこして熱い。



 噛むとじゅわり、旨味が熱さとともに広がり、舌を火傷した。




「どれどれ、ん、む。おっ、いけるっすね。センセの目利きも捨てたもんじゃないわけだ」



 焚き火を囲む隣、グレンがあぐらをかきながらキノコをむしゃむしゃ食べる。一口で食べ終えている。



 コイツ、口の中火傷しねえのか? 単純な奴は熱さとかあまり気にしねえんだろうなあ。




 味山が完全に自分のことを棚に上げてぼんやり考えた。




「まあ、流石にキノコの毒は冗談ではすまないからね。慎重に選んだつもりだよ。……さて、そろそろメインディッシュが来る頃だけど」




 焚き火に照らされた神秘的な容姿の少女、ソフィがむぐむぐと串に刺したキノコを齧る。うん、アシュフィールドが絡まない限りはコイツも充分美少女といってもいいいな。





 謎の上から目線、味山が揺れる火に照らされるその赤い目を眺めていた。




 むぐ、むぐ。キノコを全てほうばる。美味い、ホカホカのカサに、溢れる汁、美味い、うまいのだがーー





「あー、醤油ほしー! なあなあなあ、ハートマン、お前のキッチン機能に醤油ねえのか?」




 口の中に醤油の幻覚がやってきて仕方ない。これは醤油だ、醤油しかない。




 だが、残念ながらここはバベルの大穴、そのかなり深い場所。スーパーもコンビニもない。



 頼りになるキッチン機能つきのしゃべる装甲車に味山が問いかけた。




『アーミー、その質問は既に6回目だ! ない!! 誇り高きアメリカ軍の尖兵ならば、ケチャップもマスタードで全て平らげてみせろ!』




「いや、お前のアメリカ観偏ってね?」





「まあ、作ったやつが作ったやつだからねえ。ああ、やはり、塩がいい、塩が。ニホン酒、持ってくるの忘れてしまったなあ…… 助手、キミのスキットルの中身少しわけてくれたまえよ」



 ソフィがちびちびとケースに入った塩をキノコにかけてそれを食む。どことなくおっさんくさい仕草だった。




「えー、いやっすよ、センセ、一口とか言ってゴバゴバいくんすもん。これはもう大事に大事に、ちびりちびり飲むんす」



 グレンが足元に置いていたシルバーのスキットル、中に強い蒸留酒の入っているそれをソフィから遠ざけた。




「むう、いいのかな、助手、ほうら、強い酒飲んでたらこれが吸いたくなるだろー? いいのかなー? 今なら一本まるまるわけてあげるけどなー」




 ニヤリとソフィが笑い、懐からタバコを数本、裸で取り出す。ゆらゆらと揺れるタバコにグレンの目が釘付けになった。




「む、ぐ、まるぼろさん…… た、タダ、お前タバコは?」




「俺、吸えねえし飲めねえの知ってるだろうが。不健康コンビめ。にしてもこの謎キノコ、噛めば噛むほど美味いな。ほんと、醤油くれ醤油」




 酒とタバコと醤油。



 それぞれがそれぞれの嗜好品を求め、火を囲む。



 好みが違っても、考え方が、肌の色が、言葉が、全て違っても彼らは今も一緒にこうして火を囲んでいた。





 ずる、ずるる。




 何かを、引き摺る音がした。



 反射的にソフィが手元に拳銃を構える、グレンが立ち上がりソフィを庇う。




 味山は斧を拾いかけて、それから





「クラーク、グレン、大丈夫。アレフチームが誇る、炊事担当のご帰還だ」



 斧をまた地面に置く。



 味山だけに聞こえるヒントはそいつが無事に帰ってきたことを知らせていた。




「たっだいまー! ソフィ、グレン、タダヒト! いい子にしてたかしら?」




「うわ」



「また、すげえの狩ってきたっすね」




「ああ、やはり、アレタ、いい……」



 引いてる奴、感心してるやつ、しみじみと頷き彼氏ヅラしてる奴。





 アレフチームの反応はさまざまだ。





 霧が晴れる。その女、嵐の英雄の前では世界を閉ざす霧など邪魔にすらならない。




 ずり、ずひ。



 その華奢な体のどこにそんな力があるのか。装甲車両、ハートマンよりもでかい獲物を引きずりながらアレタ・アシュフィールドが霧をかき分けて現れた。





「いやー、なかなか初めての地域でやるハンティングはスリルあるわね。彼、こんなに大きいのに、この霧の中に隠れるの上手いのよ。少し見失ったりしちゃったわ」



 ふふ、とアレタが体に極小の嵐を纏わせながら、楽しそうに笑う。



 引きずってきたのは狩りの獲物。雄々しいツノのような牙、赤こけた毛皮、しっかりした四つ足。





「こりゃあ、イノシシか?」



「ええ、初めてみる怪物種よ。火を吐くからフレイム・ボア、略してフレボね」




「なんだそのソシャゲのポイントみたいな名前は。……え、てか、コイツ燃えてない?」




 味山がアレタの引きずってきた獲物の様子に目をこらす。赤こけた毛皮はよく見ると、所々が赤く赤滅している。



 焚き火の終わり、熾火にも似ていた。




「ふむ、ほんとだ。アレタ、火を吹くといったね? 基本的に火を吹くような怪物種はその体内が燃えないように、気管に火の逆流を防ぐ弁がついてたり、難燃性の粘液を持ってたりするものだが……」




 研究室気質のソフィも、立ち上がり、獲物をマジマジと見つめる。





「ふっふっふ、よくぞ気付いてくれました。あたし、彼を見つけてすぐ思ったの。美味しそうって。肉付きもいいし、毛皮の色もいいでしょ? でもこの巨体を解体して焼いて食べるのは手間だと思ったの」



「うんうん」



「へえ、まあ、確かに。それで?」



 むふ。アレタが薄い胸を張り、鼻息をすぱーっと吐いた。




「ですので! 彼が火を吹く瞬間を狙って、ストーム・ルーラーで作った槍を投げ入れてみたの! これがビンゴ! BANG!! 槍が彼の喉を塞いで、そのまま火が逆流。なかなかいい火加減だと思うわ、文字通り、中まで火が通ってる感じね」




 キャッキャとはしゃぐアレタ。



 みたの! じゃねえよ。



 味山は改めてアレタの規格外ぶりにかなり引いていた。




「ふーんむ。まあ、アレタならそれくらい出来て当然か。でも、あまり危ないことしないでおくれよ」



「ふふ、ありがと、ソフィ。でも大丈夫、外してもコンマ数秒もあったから。きちんとリスク管理もしてるわ」



「やだ、アレタちゅよい。ナチュラルに傲慢、好き……」




 だめだ。一時期アレタと敵対していた反動で少し前までめちゃくちゃ頼りになってたソフィもかなりバカになっている。




「……なあ、タダ。お前、ほんとこの人にタイマンで勝てたんすか?」




「うん、グレン。俺もね、なんかね、よくわかんなくなっちゃったよ」



 さりげない感じで見せられるデタラメ加減。あれ、嵐のなかで俺コイツに一応勝ったよね?



 あの激闘さえどこか夢だったかのようなーー






「いいえ、グレン。間違いないわ。タダヒトはあたしに勝った。間違いなく、強いのは彼の方よ…… ふふ、痛かったなあ、アレは……」




 アシュフィールドが、どこかうっとりと自分の顔、主にあの戦いで味山がボコボコにした部分を撫でる。



 形の良い鼻、すべすべのほお、火に照らされた彼女の目、どこか怪しい熱を帯びて



「ねえ、タダヒト、その…… 変なこと言うんだけど、あたしがまた、そのおかしくなったら、その、またやってもらえるのかしら?」




「はい?」



 アレタの方が少し背が高い。



 だからだろうか、アレタが手を後ろに組み腰を折って、下から味山を、その青い目、上目遣いで見つめて。




「だから、その、 またタダヒトが、あたしをギタギタにしてくれる?」




「ひえ」



 潤んだ瞳には明らかに何か、期待するような色が灯る。




 やべえ。なんかコイツ、扉を開きかけている。決して開けてはいけないタイプの扉を。




「ダメダメダメダメダメ!!! アレタ、その性癖はイカンよ! 倫理的にも生産的にもそれは幸せにはなれないよ?! それはいくらワタシでもわかるから!」



「タダ、お前、お前こそが真の漢……」



 慌てるソフィ、最敬礼するグレン。



 いつものアレフチームがここにある。





「やめろ、グレン、やめてくれ、もうやめようこの話は。はいさい、やめやめ」




「むう……」



「むうじゃないよ、アレタ! うわ、だめだやっぱりかわいい。顔が良い、その膨れた顔、もっとワタシに向けてよベイビー」




「またこの人は、ほんと……って?! あ?! 俺のウイスキー!?! てめ、センセ! ソフィ! いつのまに!? なーんか普段より言動がアホかと思えばこのバカ天才!!」




「グレンー、お腹すいらー。お肉食べたーい」



 いつのまにか、ソフィがケラケラ笑いながら懐からシルバーの小さな水筒、グレンが大切に守っていた蒸留酒入りのスキットルを見せびらかす。




「ああああ?! てめ、マジでいつのまにとったんだ?! そんな酔うほど飲んだんか?! 俺はちびちび舐めながら大切にしてたのに?! ああ、もう!!」




 自分の酒を取られたことにキレつつも、グレンが器用に解体用ナイフで、燃え盛るイノシシの皮に切れ目をいれる。




 ぷしっ、肉汁が溢れる。血はもう完全に蒸発しているみたいだ。器用に流れるナイフ、一口サイズのハラミをグレンが切り分ける。




「ほら、センセ、あーんしてっす、くそ、俺のマッカラン…… 高かったのに」



「あーん、もにゅ、もにゃ、うん、おいし!」



 白い肌を赤く染めたソフィが、ナイフに乗せられた肉汁溢れるハラミを齧って咀嚼する。



 グレンが悪態つきながらも、口元をハンカチで拭っていた。




 グレン、お前はもつ多分クラークから離れられないんだなあ。



 味山が静かにぶつぶつ言いながらもソフィの面倒を見るグレンに向けて合掌していると





「た、タダヒト、その、ほら、なんていうのかしら、冷めたら、いけないから、さ、ほら」



 アレタが何度も何度も、髪をいじり、耳に乗せながらチラチラこちらを見てくる。



 いつのまにか、木の皿に切り分けられていた肉が数切れ。



「お、おお、悪い、アシュフィールド。もらうわ」



 差し出されていた皿を受け取ろうと味山がそれに手を伸ばし、ひょいっとそれが空振りする。





「……イジメ?」



「ち、違うわ! そ、その、ほら、えっと、そう! このお肉ね、とても熱いの! ですので、タダヒトは火傷をしてしまうの絶対に、だから、ね、ほら」



 味山の隣に座るアレタから、柑橘の果物みたいな香りがする。



 それほどまでに近い距離。おずおずと、アレタが木のフォークに肉をくるくる巻いて、差し出す。




「……美味しい、よ?」



「ん、お」



 火に照らされた彼女の顔、蒼い瞳の中に、揺らぐ焔が映っていた。



 それは、故郷の夜空よりもーー





 味山は普通にたじろぐ。



 一瞬、ソフィの暢気なこえや、グレンのキレ気味の声も、火の爆ぜる音も全て消えた、そんな気がした。




「……いただきます」



 そのまま、差し出されたフォークにかぶりつく。照れるのは何故か負けたような気がしたからだ。



 びくり、アレタの手が揺れる。それを無視して味山はただ、うちからよく焼けた火を吹くイノシシの化け物肉を噛み締めた。



 生命の味、強引に焼いた甘い血の匂い、深い脂の滋味が舌に広がる。




「……美味いよ、アシュフィールド」



「えへへ、でしょ? って、え?」




 ぐいっと、アレタの手を握り、フォークを奪い取る。木の皿にまだ残っている熱い焼肉を掬い、今度は味山がアレタにそれを差し出す。





「借りも、貸しも、全部返す。お前が俺にしたことは全部返すよ。ムカつくことも、……嬉しかったことも」




「あ、……う」



 アレタが目をぐるぐるしながら、少しさがる。



 味山はそれを見逃さない。



 ブサイクに唇を歪めた。




「どうした? アレタ・アシュフィールド、また、俺の勝ちか?」




 煽る。アレタの目、キっと、吊り上がり。




「この、ニホン人!」




 ぱくり。味山の差し出したフォークにアレタが食いついた。もぐり、もぐ。口を動かす。




「良い食べっぷりだよ、アメリカ人」




「ふ、フフン! 当たり前よ、そもそもあたしたちのご先祖様たちはずっとお肉を食べてたんだから、マグロ食べてたあなたの先祖、と、は……」



 訳の分からないマウントを取りはじめたアレタが急に固まる。




「どした? まずかった? 俺は美味いと思ったけど」



 味山がフォークを使い、木の皿の肉を掬おうとして




 パシり。



 その手をアレタが抑えた。



「あ?」



「ま、まって、た、だひと、その、アレよ、あの、あたしは全然、ぜんぜん、気にしてないんだけどね、その、気付いたというか、味がしたっていうか、そのですね」



「は? 何言ってんだお前。いや、普通に手退けてくれ。フォークで肉食えんのだけども」




「いやだからね! タダヒト! あなたフォークお肉タベタ! あたしもフォーク同じお肉タベタ! それであなたまたフォーク、同じフォーク…… あ、う」




「……まさか、お前、アシュフィールド、え、うそ、お前、何歳?」




「ととととしは関係ないじゃない?! なに? お子様とか言いたいの?! ていうか、何よ?! なんでタダヒトそんな普通にしてるの?! これじゃあ、あたし1人はしゃいで、バカじゃない?!」




「いや、まあ、お前バカだし」




 味山がアレタのすきをついてフォークでまた肉をほうばる、美味い。




「ーーーーー?!!」



 もぐもぐと火を眺めながら肉を食べ続ける味山を見てアレタが声なき叫びをあげる。



 俯き、なんか震え始めた。



 やべ、からかいすぎた。クラークにバトンタッチーー




「うわああああ!! グレンが、グレンがああ、ワタシのまるぼろさんをとったあああ!! 三本も同時に吸ってるうううう?!」




「ゲーハッハッハア! 大人を舐めるからこうなるんすよ! ティーンネイジャー!! ほーら、一息で全部吸い切っちゃうもんねー…… ゲホッ!! ゴホッ!! ゴッハオ!??」




 グレンにタバコを強奪されたソフィが地面に這いつくばり、グレンがタバコ3本同時に灰にしてひどく咳き込む。




 ダメだ。あそこはもう、知性が存在していない。





 どうするかなー、俯いて喋らないアレタをちらりと、見る。





「ふ、ふふふ、フフフフ、ッ、あははははははは!! もう、なによ! もう!」



 笑っていた。腹を抱えて、金色の髪を揺らし、青い目に涙をたたえて。




 英雄がただの人のように笑う。




「ああ、もう、たのしい、たのしいなあ…… ふふふふふ、グレンもソフィもバカじゃない。ふふふふふ」




「……お前もな、アシュフィールド」




「あなたもよ、タダヒト」




 目元を拭いながらアレタが笑う。味山を見る。



 そっと、アレタの香りが濃くなる。肩と肩、僅かにこすれて。





「ねえ、タダヒト。……火、綺麗ね」



「……ああ」



「知ってる? 人間ってさ、火と波だけは永遠に見てられるらしいわ。動いて、一回も同じ動きをすることがないから」




「へえ」




「……あたしに、この火、見せてくれてありがとね」




「……おう」




「……だから、お礼。あなたや、ソフィ、グレン。みんながずっと、ううん、永遠じゃなくても、もう少し、もう少し、いいえ、もっともっと長い時間、この火を見ていられるように、あたしはしたい」





 なんの話をしているのだろう。



 いや、これは誤魔化しだ。



 アレタが、味山やソフィやグレンの抱える問題のことを言ってるのは明白だ。





「……なんで知ってるんだ?」




「……あの子達が、教えてくれたの。もう、じかんがないって。……それは嘘じゃないのね。いえ、あの子達は多分、あたしに何も嘘なんてついてなかった」




 霧の世界。



 この世と別のなにかを隔て、保存する霧が満ちる世界に、アレフチームは火を囲む。




「ここはさ、タダヒト。ダンジョンよ。世界に残された最後の神秘、ロマンしかない異なる世界。あたしは一度やり方を間違えた。でも、もう、間違えない。正しいやり方を知ったから」




「正しい?」




 味山が、アレタを見る。



 アレタも味山を見ていた。




「あなた達と一緒にいる。あなた達と最後まで一緒。それがきっと、あたしの正しさ。タダヒト、あたしをあの子ども部屋から連れ出してくれてありがと」




「介護のアテがついたな」



 味山が戦闘服の袖をまくる。



 明らかに、その肉体には限界が近付いていた。シワシワにたるんだ皮膚、そこに生気はなく。











「大丈夫よ、タダヒト」



「そうか」



「ええ、そうよ、ここは現代ダンジョン、バベルの大穴。あたし達がまだ知らない未知が、今この場よりも下に必ずある。そこにたどり着く。そこにはきっと何かがあるから」




「何かって?」




「ふふ、箱の中、最後に残るもの、1番深くにあるものはね、ずっと昔から決まってるの。それは奪えなくて、それはきっと1番いいものよ」




 アレタ・アシュフィールドの眼の中に映る栗色の瞳。




 ああ、やはり、お前はすげえよ。



 英雄、誰しもがその有様に憧れ、それを求める。



 強すぎる光はみなの目を焼き、蒙昧にさせる。



 だけど、その価値を知らず、そもそも他人の光に頼らず、そして近くにばち、ぱちと、燃える焚き火があるなら、その光はちょうどいい明るさになるだろう。





「だから、タダヒト。最後まで一緒にいさせて。今度こそ、あなた達を置いていったりしないから」




 柔らかな感触、アレタの白い手が味山のカサカサの手を握っていた。




「ーー」



 誰も、ここに至れなかった。



 誇り高き敗北者たちが、至れなかった光景がここにある。




 誰も、向かおうとしなかった。



 哀れな敗北者たちが、諦めていた感触がここにある。







 味山只人(凡人探索者)がその手を握る。




 アレタ(52番目の星)・アシュフィールドがそのてを握る。





 言えなかった言葉、聞かなかった言葉が、今。




 焚き火の前で





「了解、アシューー」
















 真っ赤な眼、真っ赤な顔。



 ソフィ・M・クラークが味山と、アレタを覗き込んでいた。酔いに酔った酔っ払いの姿で。




「こおんらあ、なああに、ワタシのアレタといちゃついて、う、ブ」




「え、ソフィ?」



「クラーク、さん?」





「オボホロロラロロロロロロロロロロロロロロロロロリ」




 ここは、現代ダンジョン、バベルの大穴。



「ギャァああ!? センセ、センセが、そのビジュアルではしてならないキラキラをををを?! うえ、ゲホッゲホッ! やべ、マジ、ヤニボケが、ぐふっ」




 怪物ひしめき、未知が嗤う、魔境。




「う。うわあああああ?! きたねええ!? ハートマン! お前、なんか洗浄機能とかねえの?!」




『ピーガガ、音声認識機能に不具合。メッセージを理解出来ません』




 しかし、そこで生きるもの達がいる。



 未知を嗤い、怪物を殺し、仲間とたのしむ、少しイかれた連中が。




「頭良すぎるAIも問題だな! グレン! お前の上司だろ! なんとかしろ!」




「タダ、タバコの精霊が。ユニコーンが火の中で踊ってる……」




「お前二度とタバコ吸うな!!」




 例え世界がクソだらけでも。



 その終わりに向かう道が悪意と絶望で舗装されていたとしても。




「プッ! ふふ、あはははははは、ああ! もう、たのしいなあ!! ほら、ソフィ、お水飲んで、お口拭いてあげる」




 彼らは笑って進むだろう。




 彼らはみんなで進むだろう。





「オウ、ベイベ。カムオン、アレタ、マイベイビー」




「クラーク、てめえはしばらく禁酒な」





 だって、その方が






「うええええ、あだまいだーい! きもちわるるい! でも、アレタかわいいー! グレンがいるー! アジヤマもいるー! うひひひい、そふい、そふいねー









 たーのしーー!!」







 きっと、その方がたのしいから。






『…………ミュージック、スタート』




 霧の世界の中、焚き火を囲んで。



 探索者たちの叫び声、どこか楽しそうな騒ぎが響く。



 心を持つ装甲車両が選んだ詩はーー




 帰ってこい、帰ってこいよ、お前の場所へ、戻ってこいーー





 彼らは遠い周りみち、ようやく帰った。戻ったのだ。




 だから、あとは進むだけ。



 ここは現代ダンジョン、バベルの大穴。



 世界の秘密がその最も深き場所に眠る神秘の地、異なる世界と繋がる宇宙唯一のバグ。









 彼らは、ここで、今、確かに生きていた。










 凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ、終わーーーーーーーー



















「にしても、この肉マジで美味いな。全部食べたろ」




 大騒ぎするバカ達を尻目に食い意地の張っている凡人が肉を平らげる。





 空になった木皿を焚き火に放り投げ、手を合わせた。





 ごちそうさまーー


















 TIPS€ アレフチーム特典 "クリア報酬"ダンジョン・サバイバー"適用




「あ?」





 TIPS€ "酔いによるダンジョン内での活動制限の排除。及び、ダンジョン内での食事による超ボーナス"





 TIPS€ ダンジョン内での食事による()()()()()




「お?」




 TIPS€ 怪物種の肉、ダンジョン原生のキノコ摂取





 TIPS€ 寿命プラス3日ーー












「マジ?」















 凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜







 〜おしまい〜








 最終部につづく


最後までご覧いただきありがとうございます。


こちらは書籍版も現在1巻〜5巻、6巻の刊行も決定しています。

もう一度、バベル島での探索者ライフを書籍版でお楽しみ頂けます。

書籍版はWEB版をご覧頂いた方も新鮮に楽しめるある仕掛けを用意して展開しております。

是非ご覧頂ければ幸いです!


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― 新着の感想 ―
書籍5巻読もうと思ってたのに、こっちをもう少しきりが良いところまでと。ここまで読みました。 ほんとものすごく面白いです。 書籍の、コミカライズのプロローグの味山が世界を敵にまわして何をしていたのかも…
[気になる点] アレタが箱の底に残るのは云々の話してたのと人類軌跡の奇跡だけ殺されてないのから考察()するに特典は人類軌跡の奇跡だ!
[一言] 3日掛けて無事読了…めちゃくちゃ疲れました でも内容には大満足です。現代ダンジョンとしては今まで読んだ中で一番だったと思います! でもちょっとSAN値チェック入るような所多すぎて人を選ぶかも…
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