105話 凡人・英雄・慈愛
「行って、きまあああす!!」
味山が地面を駆ける。アレタとは違う、味山は只の人らしく自分の足で大地を駆ける。
「ええ、気をつけて」
アレタの言葉を背中に耳男が駆ける。
"慈愛" 攻略法はもう出来ている、あとは実行するのみ
"*九千坊の尻子抜き
肉体に西国大将九千坊の力を降ろす。命持つ存在、または命に準ずる核を持つ存在から尻子玉を抜き取ることが出来る。"定命"特性、"再生"特性を持つ存在に対して特攻を発揮する。"不死"特性、または命を持たない存在には効果がない。生命の身に存在するかっぱの好む器官。本当にそんなもの存在するのか?
*2人目の火葬者 +1
この人物ははじまりの火葬者を餃子にして食べた。その偉大なる任は受け継がれた。2人目の火葬者として古い"火"を右腕に燻らせる。この火は"死骸"、"不死"特性を持つ者、または火に怯える生物に対して特攻を得る。悩んだ末、彼の名前は"ジャワ"に決定した。本人は奇妙な踊りともにその名前を受け入れてくれた。火と共に継がれたのは大罪。人を動物から区別付けたその業は世界に大きな罪として記憶された。しかし、お前は止まらない。大いなる火を携えて立ちはだかる敵を燃やすといい。火を燃やせ、薪を焚べろ。死すべき者を、あるべき場所に還せ。それこそが2人目の火葬者、つまりお前に課せられた任である。
「さて、ということはだ。再生する不死の化け物にはどれを使うのが正解だ?」
「慈愛」
巨大な溶け落ちた顔、ケープを羽織った女を模したその化け物が口を開く。大嵐の中、放たれるのは肉の塊。
「頼む、アシュフィールド」
だが避けない。アレタ・アシュフィールドが言ったのだ。防御は任せろ、と。
ならば、味山只人のやることはただ一つ。信じて、前へ、嵐を駆ける。水を撒き散らしながら、雷鳴を聴きながら、風を感じながら、只前へ。
「じ、あ」
肉の塊が空中でぴたりと止まる。大風がそれを防ぎ、空の彼方まで吹き飛ばす。
味山には届かない。人類軌跡だろうとなんだろうと、アレタ・アシュフィールドには敵わない。それを知っていた。
TIPS€ 条件達成 英雄 アレタ・アシュフィールド攻略について
TIPS€ ストーム・ルーラーとは嵐の概念そのものだ。嵐の夜に潜むと信じられた伝承の怪物、嵐を司ると祀られた神々、そして人類が体験してきた嵐による軌跡、災害、科学的発生理由、エネルギー、およそ"嵐"全てに関わるものを扱うことが出来る
「チートすぎてワロタ」
瓦礫を飛ぶ、建物を飛び越す。嵐の街を耳男が駆けていく。風が、水が、その移動を助けてくれる。
ああ、水は冷たく、心地よい。
頭にリフレインするのは大海渡りの大偉業。そうだ、味山只人の中にいるかの大妖怪はこの嵐すら乗り換え大陸より瑞穂の国へ渡った。
TIPS キュッキュキュ! キュキュキュッキュッ!! キュッキュー!!
「ああ、わかってるよ、キュウセンボウ」
本当は何もわからない。キュッキュと鳴いているようにしか聞こえない。だが、それで充分だ。彼ら神秘は味山の味方なのだから。
簡単に到達した、直上、人類軌跡、"慈愛"
耳の力で跳び跳ね、鬼の力でそれを制御し、河童の力で水を味方に、そして味山の背中には嵐がついている。
それら全てを使い倒す。由来のわからぬものであろうがなんだろうが、敵を殺すためならば使い倒す、便利ならば手を伸ばす。
それこそが、人。
「アシュフィールド!!!」
叫ぶ、味山の足元で嵐が舞う。上昇気流、それも人を容易に吹き飛ばすレベルのもの。
耳たぶが揺れて、それから冗談みたいに味山の身体が空へと吹き飛んだ。
浮く、身体が風に捉えられめちゃくちゃに揺れる。かっこよく跳ぶのをイメージしていたのにこれじゃ完全に竜巻に巻き込まれるモブその1みたいだ。
「うわばばばはおおおおお!!? や、べええええ!! せ、せんせえええええ!! ヘエエエルプアウア!!」
視界がめちゃくちゃだ。嵐の空、瓦礫の街、そして遠くに見える海は大荒れ。
懐かしいな、台風の日みたいだ。
呑気に、めちゃくちゃに風に巻き込まれながらも味山は嵐の世界に目を奪われてーー
TIPS ええい!! どいつもこいつも!! 力を抜け! ある程度は俺が動かす!! あ!? キュウセンボウ、お前また!! すぐに吐き出せ!! なに?! 今度は火を通したから問題ないだと?! ダメだ!!
「お、おおおお?! なんか大変そうだけど宜しくうううう!!」
途端に、体勢を取り戻す。地面の方に足を向け、風にうまく乗る。やっぱセンスって大事だわ、ほんと。味山が身体の中の平安武士のすごさを改めて認識してーー
「慈愛」
それと、目線が合う。地上約30メートル付近、巨大な怪物種と目が合う位置まで味山は上昇していた。
「よう、トージョー、殺しに来たぞ」
耳男の目と、慈愛の目が交差する。
「慈。ああ、ああお、早くーー お願慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛慈愛」
めちゃくちゃに巨大な身体が暴れ始める。直撃すれば耳男であろうが死ぬだろう大質量の一撃、溶けかけた肉の腕が振われる。
「当たるかよ」
当たらない。突風が吹く。この嵐、宇宙から気象衛星にて確認出来るこの環境、嵐全てはアレフチームの味方だ。
腕の一撃を避けるように風が吹き、味山をさらに高く運ぶ。
人類軌跡、真上、頭上を見下ろす位置にまで味山が吹き飛んで。
「ぶっころす」
TIPS€ 人類軌跡 "慈愛" 攻略方法通知
人類軌跡、慈愛の殺害には"再生"特性の攻略が必要。保有技能"九千坊の尻子抜き"を推奨。 外部に大きな裂傷を与えたのち、体内の核を抜き取ることが出来れば"再生"特性を消すことが出来るだろう
裂傷、体内、抜き取る。
味山は風に吹き飛ばされながら、視線を下に。
苦しむように頭をかかえて首を下に倒している肉の化け物、そのうなじを目線に捉えた。
「巨人の弱点はよおー、そこだよなあ!!」
なんの根拠もない、ただ酔いのままに味山が戦術を決める。
「せんせえええ!! 鬼裂チョップ!! 最大出力でええええ!! シャアアアス!!」
TIPS 何が鬼裂チョップだ!! ふざけた名前つけおって!! チッ!! なんと素養のない身体、薄い血!! ああ…… なぜこんな男を我が子孫は……
「あ?!なんかすげえ悪口!! 頼む! あんたの力が必要だ!!」
TIPS もう始めとるわ!! ああ!? くそ、酷い出来だ、末代までの恥ぞ、この鬼裂がこのような出来の悪い式を編むとはーー クソ! いいか、貴様、子をなすなら次は名家の者と番えよ! ひどいなこの凡庸さは!!
「すげえ差別発言!! これだから倫理と人権がしっかりしてねえ古代の人間はよーー」
味山がかなり失礼な平安ガイコツに落下しながら文句を言って。
TIPS 呪血式
「お?」
それは突如起きた。
左腕、剥き出しの骨の腕に変化が現れる。
指が、関節が、手首が、腕骨が変化する。
がき、がききき、骨が軋み、形を変える。平安の世において陰陽師の流れを汲むある戦闘集団は人血の中に呪いの力を見出した。
本来であれば、味山只人の凡庸な血質では決して扱えないその神秘、しかし今、その左腕は平安最恐の鬼の骨で出来ている。
TIPS 誉に思えよ
「お、おおおおお?!」
骨の左腕が巨大な刃物に姿を変える。肩刃、骨の繊維が奇妙な紋様を写す。悲しいかな、その素質の悪さから作りは雑、刀身はギザギザ、作りは荒い。
TIPS ひどい出来だ…… だが、お前にはちょうどよさそうだな
味山は落下しながら目を輝かせる。ニホン人の男、いや女でも大体みんな刀は大好きだ。味山も例外ではない。
TIPS 呪血式 "骨喰藤四郎"
鎌倉の世、鬼裂が鬼に身を堕としたのち、戯れにある刀工と過ごした数日があった。
刀工が作り出した名品と同じ名を冠する式、それが今、耳男の左腕に。
時を超え、伝承がこの世に再生する。凡人の身体を通して。
「オオオオオオアアアアアアアイエエエエエエエエガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
伝承再生、耳男が落下したまま刃と貸した左腕をうなじへと向けて振るった。
ずぶん。
「じあああああいいいいいいいいい?!?!」
捻れ、ギザギザの刃が溶けかけの肉、うなじを切り裂く。耳男の大力を持って振われたナマクラが肉を斬り飛ばす。
「おっとおおお?! あぶねえ!! なんだあ?! てめえ、うなじには本体いねえのかよ!? お約束破ってんじゃねえぞ!!」
化け物の身体から滑り落ちないように左腕を肉に突き立てうなじに登る。
どろり、人間1人ぶんほどの巨大な傷、裂傷からドロリとした血が流れ出す。
「じ、あいいいいい!!」
めちゃくちゃに暴れ始める化け物、しかし、風が、雨が、雷が、嵐が化け物の動きを食い止める。
「裂傷確認、お前の殺し方はもう出来てる」
味山のエラ、耳男の脈動するエラがぬらりと濡れて。
「じ、あ」
「出番だ、九千坊」
TIPS キュ
ねろり。
それはやはり、酷い見た目だ。
大きな耳の面は顔を覆い、左腕は骨、右腕は燃えていて、そしてエラからーー
「九千坊の尻子抜き、使用」
でろでほり。
エラからは、腕だ。手だ。水かきのついた緑色のうろこが生えた腕がエラから生えた。
4本の腕をついに生やした耳男、エラから生えた水掻きの手が、慈愛の傷口に入り込む。
「尻子玉、よこせよ」
「慈」
そのまま思い切り、引き抜く。ずぶん、ずぶん。その水掻き、大妖怪の伝承が、人類軌跡から最も大切なものを引き抜く。
ぶち、ぶち、肉がちぎれ、溶けた肉をすすんでいく。そして、水掻きの手がそれを捕まえた。
「みいつけた」
それはもう、完全に化け物の業だ。人類の産んだ慈愛という軌跡からも味山只人は容赦なく、全てを奪う。
「じあああアアアイアイ?!! あああああああアアアアアアアオオオオオオ?!!」
「ギャハハ!! キューキュキュ!! ギャハハハハハハハハア!! 出てこいやあああ!!!」
耳男のエラから生えた腕が、それを引き抜いた、
生命の核、不死の化け物に本来ありえぬ尻子玉。
人間の形をした、血塗れの肉人形を。
「あ」
「よう、東條さん、久しぶり」
それは、かの女だった。
貴崎凛の理解者で、味山と同じ大人。
良き、人間の1人だった。肉人形と化してなお、ほんのわずかにでも人としての矜持を残していたのは東條の血の元を辿れば、ある平安の世の名家にたどりつくからなのだろうか。
でも、もうその答えは永遠にわからない。
「そして、お別れだ」
「り、ん… お、じょう、さ……」
「後は任せろ」
余計には苦しめない。左腕、鬼裂の刃で心臓、肺、首を貫く。そして、胸に右腕を、弔いの火を当てた。
「あんたの借りはまとめて俺が返してきてやるよ。だから、もう終われ」
「あぁ…… あり、がと…… あた、たかい…… 綺麗な、火……」
ぼう。
火が、肉人形を燃やし尽くす。あっという間に燃え尽きて、その灰は嵐に攫われて消えていく。
TIPS€ 人類軌跡"慈愛"より魔術式体の消失を確認。"再生"特性が無くなりました
味山の1つの仕事が終わる。
それでもなお、目覚めた人類軌跡は止まらない。起動と特性付与のための核が消えようとも、それは惑星により設定された免疫機構。
伝承でも、耳男でも滅ぼすにはまだ足りない。
そう、起源を同じとする巨大な力でもなければーー
「アシュフィールドオオオオオオオオオオオオオオオ!! ぶちかませえええええ!!」
「了解、タダヒト。いい仕事だったわ」
英雄が当たり前のように嵐の中に浮いていた。
頭上にある球体、ストーム・ルーラー。嵐を閉じ込めた號級遺物から力を集めていく。
「ストーム・ルーラー、仕事の時間よ」
それは嵐の概念、雷鳴が轟く。雷光が球体を照らすたびに、その中に閉じ込められ、暴れ回れ、殺し合う嵐の概念の姿が見える。
「主よ、いと高き場所にあるあなたにこれから叛きます。嵐の夜、雷鳴の恐怖、全ての神話、数多の伝承はいま、わたしのてのひらに」
人差し指、そこに嵐が集まり、時を待つ。
「嵐の亡霊、水の神、大海の神、大風の申し子、神風、深き海に眠る巨神、名前すら呼ぶことの出来ない旧い支配者、悠久の時を泳ぎ続ける首長の竜」
嵐が、舞い降りる。
世界には恵みを、そして人間には災禍を齎す惑星活動が、1人の英雄の意思の元、轡を並べる。
「荒れ狂う黒い水、閃く雷鳴、猛る風、吹き飛ぶ人の営み、嵐、それ全て我がてのひらに」
人差し指、英雄の指先に嵐の征服者の力が流れ込む。
「ストーム・ルーラー5%使用」
音が、消えて。
耳男を攫うように大風が吹いた。
「うわお」
大空に舞う、嵐に空に攫われながら味山は見た。
「慈愛」
巨大な化け物が、英雄を見つめていた。
そして、跪く。
巨大な球体、嵐を閉じ込めた球体の隣に浮く英雄に向けて、溶けた手を差し伸べた。
まるで、それは助けを求めーー
「わたしの敵を殺せ」
嵐が、巨大な化け物の身体に現れた。
轟音、大水、大風、豪雷。
そして雷に照らされながらありとあらゆる嵐の概念が現れ、化け物の身体を噛みちぎり、握り潰し、バラバラにしていく。
嵐が、慈愛を殺した。
「慈、あいーー」
「さよなら、出来損ないのくだらない軌跡さん」
英雄の一撃で、全ての決着がついた。
慈愛は、もうその存在すら本当にあったのか分からないほどにその姿を消していた。
「うおっと……」
風が、味山を地上に運ぶ。よろけながらも体勢を戻す。
「あ、シュフィールド?」
英雄もまた、同じ地面に降りていた。
雨が降りしきる。風が少しづつ緩くなっていき。
「なあに、タダヒト」
振り向いた英雄の顔には飛沫一つついていない。
綺麗な顔が、味山にこれ以上ないほど完璧で美しい笑顔を向ける。
シワも、たるみもない。美しい顔だ。
この世のものとは思えない光景の中、この世のものと思えないほどの綺麗な顔で、アレタ・アシュフィールドは敵を殺した。
TIPS€ 英雄 アレタ・アシュフィールド攻略について
TIPS€ 嵐を超えない限り、この女を殺す方法はないだろう
「……だろうな」
役に立つかどうかもわからないそのヒントに、ぼんやりと味山は答えを返した。
「ふう、少し疲れたわね…… レリック・エンド」
パチリ、綺麗な指を鳴らす。
「おいおいおいおい、嘘だろ」
馬鹿でもわかる光景。
突如、風が止む。
雨音が壊れたみたいに消えて、アレタの金髪が輝かしい始める。
雲の隙間から降りてくる太陽の光が、英雄の金の髪を照らしていた。
アレタの意思で嵐は終わりを告げる。
その、蒼い目。
それは、人間の目じゃない。人間がしていい目じゃない。どの感情も当てはまらない意味不明の光を宿していた。
TIPS€ 警告 "英雄神話" の発動を確認。周囲の知的生命体に深刻な精神汚染ーー "凡人" 、"完成された自我(社畜)"により精神判定無しで無効化に成功
「うわ、めっちゃ綺麗」
例え、運命、宿命を変えてしまうような異常存在でも凡人には関係ない。だって、彼らにはそんな大そうなものはない。
「へ?」
英雄に、特別な存在に向けて、凡人が語りかける。
ただ、その時その時に感じる感情、それだけを抱きしめて、何者にもなれず、何者にも選ばれない凡人が、それでも言葉を放つ。
「あ、悪い。こんな時に。アシュフィールド、お前、雨上がりが似合うな」
呑気な言葉、ほぼ無意識に味山が英雄に話しかけた。
少し、ぼんやりとしていたアレタが、そして
「ふ、ふふふ…… それ以外何が言うことないの? あたしが怖くないのかしら?」
「それはこっちのセリフだ。耳男だぞ。ああ、本当に綺麗だ。だから連絡遅かったのは許してください」
それは相応しい言葉ではない。神話すら超える現実の中、敵を殺した英雄に向ける言葉としてはあまりに陳腐で、中身がなく、相応しくない。
そもそも、この場に凡人などと言う存在がいることすら、何かの間違いだ。
でもーー
「あは、あはは!! もう、なによそれ」
蒼い瞳が潤んでいるのは何故か、誰にも分からない。
「バカね、タダヒト」
ーーでも、そんな言葉が救うものもあるのだろう。たまにはそんなことがあってもいい。
英雄が、アレタが、その時だけ只の年頃の女のやうに笑う。
空が明るく、風は緩く、雷はもう無い。
ーー嵐が去った。
「あ、もう無理」
「うえ、あたしも無理」
同時に、味山が、アレタがその場に崩れ落ちた。
プランC "地獄で会おうぜ!!"
メイン目標 "人知竜端末50%以上を始末したのちにアレフチームと合流する"
成功!!
アレタ・アシュフィールドと過ごす残された時間が少し伸びました。
ストーム・ルーラーの攻略情報がいくつか手に入りました。
バベル島攻略戦の"人類"勢力の勝利が確定しました。
"脳"戦にて貴崎凛の生存の可能性が発生しました。
全てをぶちのめす為に起き上がりますか?
YES/はい
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
<苦しいです、評価してください 感想返せてなくてごめんなさい!! 全て読んでそれをモチベにしています。つまり感想があれば永遠に書けるということですね。永久機関ができちまったなあ> デモンズ感




