98話 見た目は化け物、心は人間
……
…
戦闘端末群より、指揮型端末へ!!
は、ハナシが違う! 話が違う!
耳の予備の無力化に成功したのではなかったのか!?
いいカゲンな情報ながしやがっテ! 本体のお気に入りダトいえど、やはり、貴様ノヨウな中途半端にノコっているやつはこれだからーー
あ
既に14体の戦闘端末が停止…… あ、15体に……
全端末へ!
全、人知リュウ端末へ!
耳の予備は生きている!!
既に15体の端末が破壊されーー
「いいや、16匹目だぜ。お前でな」
あーー
……
…
「ふう」
味山只人が、16体目の人型の化け物を始末する。首を胴体から引っこ抜き、そのまま胸を右腕で貫き、中から燃やす。
「ア。あ、あああ…… ぜん、タンマツへ……」
消し炭になる肉人形。味山はゴミを捨てる気軽さでグズグズに燃えたそれを投げ捨てる。
「なるほど、コイツら集団で情報を共有できるわけか。本体、人知竜…… どこかで聞いたことがあるな…… くそ」
今更ながら、あの時、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったと耳男が考える。
人知竜というワードは初めて聞く言葉ではない。もし、味山只人が英雄ならばこうなる前に何か対策を練っていたかもしれない。
でも、味山は決して英雄ではない。危機を未然に防ぎ、正義のために戦う選ばれた存在ではない。
ただ、自分の感情のために、化け物の力を強引にこじ開けて手に入れるだけの、只の人間だ。
「まあ、しゃーない。この失敗は、連中を今度こそ動かない死骸に変えてやることで埋め合わせしよう。……これは、趣味が悪すぎる」
TIPS€ 人知竜は肉人形をグレードアップし続けている。動く死骸はその鮮度を保ち、生前の人間性を保ったまま、端末としての役割に従事している
「敵の名前は分かった。人知竜。どんな奴かは知らねーがーー」
TIPS€ 敵情報更新。人知竜。腑分けされた部位所持者。"脳"、"内臓"を保有している
「……なんか耳の調子いいな。君、普段こういう肝心な情報の時ノイズ入るよね」
TIPS€…………………
ヒントが押し黙る。耳男の状態になってから、何かこのヒントのことが妙に気になる。
どこか、懐ーー
「っ!!? ひい!? ま、また新たな化け物だ!!! な、なんだあの悍ましい姿は?! 撃て!
撃てえ! このメインストリートの入り口を守れ!!」
「了解!! 隊長!!」
「うぐう、すまない、みんなぁ!! 誠に申し訳ないが、この場所は死守だ!! 国連常駐軍、第6歩兵隊、第二巡回部隊!! 火力を集中させろ! これ以上ニホン街に化け物を入れるな!!」
がちゃがちゃ。
あ、やべ。
気付いたら、周りを完全に武装した兵士に囲まれている。
悲壮な声と覚悟を感じる気迫、どことなく崖っぷち感もある。
しかし、この見事なまでの包囲の速度、360度囲まれているのに、その位置取りはフレンドリーファイヤを防ぐようにジグザグになっている。
建物の上からも何人か銃口を向けている。
間違いなく、手練れの部隊ーー
「民間人を守る!! みんな、職務を果たせ!!」
「「「はい!!」」」
かちゃ。
引き金に指が触れる音、今の味山にはそれすら把握出来る。
把握できたところでなんだ、という話ではあったが。
「え。ちょ、待って!! 待て!! 人間! 人間でええす!! やめて! 撃たんといて!!」
耳男が周囲を見渡し、反射的に手を挙げる。ぶるんと耳たぶが揺れる。
「た、隊長!! 何か言っています!! 人間とかなんだとか!?」
「騙されるな!! 先ほども民間人に偽装した化け物にロックが殺された!! 奴らの常套手段だ! くそ! あんないい奴を!! ニホンのアキバにあれほど詳しい奴はいなかった! 許せん!」
「うわああああ!!? ギブギブギブ!! 銃はやめよ! 銃はいかん、銃は!! ほら! ほら、これ探索者端末!! あ! アレフチームだ! ほら、わかるだろ! アレフチーム! アレタ・アシュフィールドのアレフチームの味山だ! 人間だ! 今はすこし訳あってこんなポップな姿だけどバリバリ正気の人間だ!」
ひえええ、と味山が必死に手に持ったスマホ型の端末をかかげる。
「た、隊長、あの化けモンなにか様子が変です。こっちに近づいてくるわけでもなく、ほんとに探索者のスマホ型の端末を持ってる」
双眼鏡を手にした隊員がつぶやく。
「なんだと? 狙撃チーム、スコープで確認しろ、奴が持っている端末を認証できるか?」
トランシーバーで隊長格の男が建物屋上で味山を狙う射手に指示する
[だめです、やはりGPSを利用した通信は未だ動きません…… ただ、スコープから確認した姿は、まるで素人だ…… 見た目は、そのひどいですが]
トランシーバーから返ってくる答えに、隊長がわずかに空気を緩める。
味山はそれをみて、よかった、わかってくれた。さすがアレフチームのブランド、やっば長いものには巻かれるっていう言葉は本当だったんや!!
味山が気を抜きかけて
「アレフチーム…… あ!! だ、騙されちゃダメです! 隊長! アレフチームで思い出した! "耳"!! つい先月あたりまで探索者を殺し回っていた化け物!! 人間の耳の姿をした化け物、まさにアイツですよ!!」
「な、に?」
軍人達が、空気を鋭く。
やべ。これは、やばい。
「待て! 俺は人間だ! どこからどう見ても…… あー、そうだった。ビジュアル今俺、完全に耳じゃん」
味山が、ふと素に戻る。
耳のお面がぶるぶる蠢いた、
「……!! 総員構え!! 撃てえ!!」
銃口が光る。
音が空気を破裂させる。
銃弾が、放たれた。
「っっそ耳があ!! てめえの評判悪すぎじゃあああああ!!」
思い切り、地面を殴りつける。石畳を砕き、瓦礫を掴んで引き摺り出す。
パパばパパパパっ!!!
弾くような音が空気を叩く。
瓦礫を盾にした味山を銃弾の怒涛が襲った。
「うべえええ!? すげえ迫力っぶ、ぶえ!? 嘘お! 貫通しとる!! い、でええええ」
無理矢理、道路の石畳みを引きずり出しつくった急増の盾はだいたいの銃弾を弾いたが全部とはいかない。
何発かのライフル弾が、瓦礫を貫き、味山の血肉をえぐった。
「た、隊長!? い、生きてます!! あ、あいつ、瓦礫を道路から引き抜いて…… ば、化け物……」
「く、怯むな! ここを落とされればニホン街で民間人を救出活動中の自衛軍に顔向けが出来ん! 勇気ある彼らを守るのは俺たちだ!」
「は、はい!!」
隊長の言葉に隊員達が士気を取り戻す。再び向けられる銃、今度は建物の屋上の部隊もその銃口を耳男に向けて。
「ぐえ、いてえ。銃はあかんやろ、銃は」
思わず関西弁になるほどの痛み。なるほど死ななくてもクソ痛い。
「ま、待って! ほんとに俺! 人間なんだ!」
「「「「嘘つけえ!! 撃てーー」」」
味山の必死の言葉も死ぬ気の兵士には届かない。
凶弾が再び化け物に、耳男に向けられてーー
「ホヒ、ホウイ完了」
「ウェーイ」
「ぼひ」
「マボ」
わらわらと、奴らが湧く。
銃声に寄るように調整された戦闘端末。人間の外見から既に解き放たれたその異形。
蜘蛛のごとく手足ののびきった個体は壁に、つねに逆立ちしている個体は建物の隙間に、口から腕を生やして何か歌っている個体は道路に。
「ひ、ひい!? た、隊長、囲まれています! まだ、こんなに数が!?」
「まずい、隊長!! 屋上にも敵を確認!! 狙撃チームがやばい!!」
「く、くそ、離れろ! くるな!!」
屋上にいる狙撃チームが、蜘蛛のような肉人形に襲われている、近接は分が悪い。
すぐに、脳天をその尖った手足で貫かれ、生きながら脳みそを啜られるか、"脳幹"を植え付けられて新たな肉形になるか。
そのどちらかしかーー
「く、耳の化け物め、我々の注意を引いて他の化け物を誘導していたのか?! 奴には知性がーー あれ? 耳の化け物は?」
「え? あ、あそこです。離れてます。え、なんか、アイツ、なんか抱えて、え? 瓦礫……? 瓦礫を抱えてません?」
「「「え?」」」
絶対絶命の隊員達、前門の耳、後門の肉人形。
生き残る道などーー
「人が、よ」
しかし、その化け物は、化け物にあらず
「人が、今!!」
見た目は化け物、しかし
「人が今、しゃべってんだろうがよおおおおおおお!! オラアアアア!!」
「え」
盾として使っていた瓦礫を、耳男が持ち上げる。構えて、世界を支える巨人のように大きな瓦礫をあたまの上に掲げる、体ごと振りかぶり、そのまま
「死ねえええええええ!!」
投げつけた。
ぼん、空気が吹き飛ぶ音。
「ひいい、やめ、来ないで!?」
「ほ、ヒ、脳みそ、かにみそちょうだーー え?」
ぱちゅ。
水音。赤い色水で一杯の水風船が弾けたように、今まさに狙撃チームを殺そうとしていたクモみたいな化け物が消えた。
下から投げつけられた瓦礫は、化け物の身体だけを攫い、その身体を汚い花火へと変えていた。
「「「「「「え」」」」」
国連常駐軍第6歩兵隊、第二巡回部隊の全員が、そして人知竜の端末達が、みな同じ声を漏らす。
「狙撃(物理)、成功」
ばん、耳男が手で銃のジェスチャーを作る。ばん、じゃないがな。
「み、み、みみの、ヨび……? びゃい?!」
「あのクソ耳と一緒にすんな、俺は人間だ」
一瞬で、距離を詰めた耳男が、口から腕を生やした個体をぶん殴る。振り下ろされた拳で、ぐちゃり。腕が押し込まれ、首の付け根を突き破り、化け物は死んだ。
「へ? 化け物を、殺しーー」
「もう撃たないでくれよ、痛いから」
呆然とその様子を見る隊長の黒いヘルメットバイザー、そこには化け物を殺す、耳の化け物の姿が映る。
そこからは圧倒的だった。
味山が、耳男が駆ける。
呆然としている隊員達を尻目に、辺りを囲う化け物を殺す、殺す、殺す。
「け、警告、ケイコクケイコクケイコク!!! み、耳の予備、ケンザび?!」
逆立ちしている化け物を、そのまま左腕の鬼裂チョップで真っ二つにする。
「ふざけた姿しやがって、舐めてんのかテメー」
耳男の姿もどっこいどっこいだが、味山のセンス的には今の姿は割とありだった。
「ほ、本体に、本体に、つうたつつつつつつづ」
「おー。よーく伝えといてくれよー? 今からてめえみてえにズタズタに引き裂きにいってやるってよおおお」
肉人形の下顎を掴み、そのまま大力を持って思い切り下に引き裂く。チーズみたいに顎をなくした化け物は、痙攣しながら壊れた。
「ぎゃーはっはっは!! なんだか楽しくなってきちゃったなあ!! 人間だからよお!!」
端末の叫び声、味山の笑い声。
地獄のような場所を、耳男が駆けて、肉人形が逃げ惑い、人間たちが茫然とそれを見つめる。
「隊長、あの、俺、夢をみてるんですかね」
「ああ、悪夢だろうな。ミルク飲んで寝よ」
ぼーっとした隊員達が、耳男が好き放題に化け物を殺し続けるのを眺める。
「す、すげえ」
「耳、あいつ、味方なのか?」
「嘘だろ、あの見た目だぜ? 良くて中立のユニークモンスターだろ」
「でも、アイツ、こっちにまるで攻撃してこねえ…… さっきだって、反撃もしてこなかった……」
「俺たち、もしかして生き残れるんじゃ……」
隊長達が、好き放題にあばれる耳男を見て、ぽつりぽつりとつぶやく。
広がるのは、疑問、広がるのは、高揚。
そのどうしようもない、ただの暴力。
しかし、人間。争いにより種を繁栄させてきたこの生き物は、善であれ、悪であれーー
「おい、なんか、すごくね? おれ、なんかよ」
「は、はは、おい、お前なんで笑ってんだよ」
「お前もだろ、その顔まるで」
とある隊員が、つぶやく。
「……いけえ!! 耳野郎!! ぶっ殺せ!!」
「おい、お前……」
「いいだろうが! みろよ! アイツもう10体は化け物殺してるぞ! おれらの、仲間を、おもちゃみたいに、ロックを騙して、バラバラにした化け物をぶち殺してくれてんだぞ!」
「あ……」
「俺は、俺は応援するぞ! いけ!! いけ! 耳野郎!! そいつら全部、皆殺しにしちまえ!」
「は、ははは、こりゃ減俸だな…… やれ!! 化け物耳!! 目え、狙え! 目え!!」
「お、おい、いいのですか? たいちょーー」
「オラァ! ぶっ殺せ!! 耳野郎!! まだまだいるぞ!! やっちまえ!!」
隊長までも、腕をかかげて、叫んでいた。
「はあ…… もういいか。……耳!! 頼む!! やってくれ!! 耳の化け物!! お前しか出来ない!!」
「「「「「耳!! 耳!! 耳!! クソ化け物!! 化け物どもをぶちのめせえ!!」」」
野太い声が、辺りに暴力を振りまきながら暴れる味山を包む。
そう、人は善性であれ、悪性であれ、どこかしらその力に憧れ、酔う。
暴力。
「化け物じゃねええええ!! 俺は人間だああああ」
「ぷびゅ」
最後の肉人形をこわす。首を絞めて、そのまま圧力で頭が弾けた。
「「「うそつくなああああ!! 化け物おおおお、最高だあああああ」」」
「うるせえええ!! だから、俺は、人間だ!! 耳男だ!!」
歓声が沸き起こる。酔いにまみれた乱暴な人間が、それでも弱者を守るために銃を取る人々が口々にたたえる。
「「「「耳男!! 耳男!! 耳男!!」」」
血の濃い匂いがする場所に兵士達の野太い声、下品な声援が満ちる。彼らは生きていた。
もう、その銃口は耳男へ向くのをやめていた。
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<苦しいです、評価してください、暖かい感想ばかりありがとうございます、ほんとに感謝です。毎秒更新は無理ですが毎日やっていきます> デモンズ感




