幸せの形
ある少女はストーカー被害に悩まされていた。
そのストーカーは、彼女が一人の時に限って現れ、彼女を追い回す。
だが、気がつくといなくなっている。
彼女はこんな変わったストーカーがいるなんて聞いたことも無かった。
彼女には最近出来た、彼氏がいる。
ストーカーが現れたのもその頃だ。
彼女は自分に好意を寄せていたものが、
彼氏の出来た自分に嫉妬しているのだと思った。
嫉妬なんて、時間が立てばきっと収まる。
彼女はそう考えていたので、誰にも相談はしなかった。
だが、ある日、彼女が公園のトイレで手を洗っていると、
ハンカチが無いことに気がついた。
もう、洗った手はびしょ濡れだ。
すると、誰かに肩を叩かれた。
振り向くと、そこには黒い覆面をした、男がいた。
少女は叫んだ。
何を隠そうこの覆面の男こそが、彼女を悩ますストーカーだったのだから。
少女は逃げようとするが、もう腕は奴の掌の中だった。
奴は、ズボンのポケットに空いている手を突っ込んだ。
少女は怯えた。ナイフが出てくると思ったからだ。
だが、ポケットから出てきたのはハンカチだった。
奴は少女にハンカチを渡してトイレから出ていってしまった。
彼女は酷く怯え、我慢の限界が来てしまった。
彼女はすぐに帰宅し、父の帰りを待った。
彼女の両親は彼女が小さい頃に離婚している。
何でも、彼女は父の子供じゃ無かったらしい。
父は隠さず話してくれた。彼女は嬉しかった。
血の繋がりは無くとも、彼女と父は信頼で繋っていた。
父が仕事から帰ってきた。
毎日同じ時間、父は寄り道1つせずに家に帰ってくる。
彼女も同じように父が帰ってくる前に夕飯を作る。
変わらない日常、花の無い日常、けれども、彼女らは幸せだった。
だが、そんな日常に水を差すものが現れた。
そうなっては仕方ない。害のあるものは消さなければ。
父は彼女から話を聞き、酷く心配した。
父は、これからは学校には送っていく、彼とは別れろと言いました。
彼女は猛反発しました。彼と別れる?冗談じゃない。
それは、彼女の一番恐れていたことでした。
父は厳しい、そして過保護だ。
照れくささゆえに厳しさで彼女をまもっているのでした。
彼女はこれを知っていました。
父は自分を愛している。守ってくれる。
けれど父は厳しい。
きっと、原因である彼とは別れろと言うだろう。
それは、承諾はできない。
なぜ、被害者である彼女がまた我慢しなければならないの?
なぜ、また奪われないといけないの?
彼女は父に文句をぶつけました。
自分の思っていることすべてを。
最後は理解してくれない父を残し、自分の部屋に戻りました。
彼女はこのままではやつのせいで日常が壊されると察しました。
父と喧嘩までしてしまった。
やつには、落とし前をつけたもらわないといけない、彼女は決心しました。
次の日の放課後。
彼女は友達と別れてすぐに後ろからついてくる人に気づきました。
彼女は少し小走りし、目の前の角を曲がり、やつを待ちました。
やつは案の定、彼女の後をつけ、行き止まりの角を曲がってきました。
彼女はやつを突き飛ばしました。
そのあと、昨日買っておいた警棒でやつの次に警戒しました。
けれども、やつは、起き上がって来ませんでした。
どうやらやつは、地面に頭をぶつけて気絶したらしかった。
やつはマスクとサングラスを着け、フードを深くかぶっていた。
彼女は、やつが知人かどうか確かめるために、顔を隠すものを取った。
何も隠すものが無くなった顔はとても見覚えのある顔だった。
……それは父だった。
少女は困惑した。
父が? そんなわけない。
いろいろな考えが頭の中で暴れまわる。
頭のなかで整理する間もなく――
少女の胸からナイフが生えました。
少女、もとい彼女はまた、困惑しました。
少女を刺したのは、彼でした。
彼は少女に言いました。
さようなら、僕の障害、と。
少女は泣きました。
意味もわからず、自分に何が起きたのかもわからず。
少女の最後は血と涙で汚れた汚い最後でした。
彼はそれを嘲笑い、少女の死体を蹴り飛ばしました。
◆
彼女に突き飛ばされた父は、しばらく気を失っていました。
少女が刺されて、父は鉄臭い血の臭いで目が覚めました。
父は泣きました。
大声で、他人が見れば引くレベルで。
けれども、ここは路地裏。
その声は誰にも届きませんでした。
彼は言いました。
僕は、あなたの妻の子供だ、と。
彼は言いました、僕はあなたの元妻が再婚した相手の連れ子だ、と。
最初は、家族三人で、仲良く暮らしていたが、僕が小学生の頃、こいつ(彼女)と手を繋いで歩くあなたを見た瞬間、母は壊れてしまった、お陰で母と僕は父に捨てられ、散々な目にあった、と。
彼は続けました、もし、あなたがまた母を愛してくれるなら、僕はあなたを殺さない。ほら、あなたを縛る邪魔な者は今、死んだ、と。
父は言いました。
私が愛するのは、彼女だけだと。
そういって、父は倒れる彼女の元へ座り、自分の服を被せてあげました。
彼は、そうか、じゃあ、あなたもいらない。そういって、彼は父を殺しました。
彼が去ったあと、父はまだ息がありました。
震える手で彼女、娘の顔を撫で、「ありがとう、幸せだった。」と呟いてから、父は生を全うしました。他人から見れば父は、妻に裏切られ、娘を殺され、不幸な人に見えるかも知れませんが、父は幸せでした。
血と涙でぐちゃぐちゃになった彼女も、最後に思い浮かべたのは父との生活でした。
彼女もまた、幸せでした。この幸せだけは、誰にも壊されはしませんでした。
◆
彼は、家に帰りました。
家には、元妻、彼の母がいました。
彼は母に言いました。
あなたの元夫にあってきた。と。
母は返しました。
そう。と。
彼は続けました。
あなたの娘を殺した。と。
母は呟きました。
……そう。と。
彼は教えました。
あなたの元夫はあなたを愛してくれなかった、だから、殺した。と。
母は聞きました。
……あなたは今、幸せ?と。
彼は言いました。
あなたが愛してくれるなら、僕は幸せだ。と。
母は言いました。
ずっと、愛していたわよ。と。
彼は笑いました。
嘘。いつ僕の事を見てくれていた?あなたはずっと元夫を見ていたじゃないか。と。
母は教えました。
あなたの父は、彼女の父でもあるの。……笑えるでしょう?
私はあの男にすべてを奪われた。カレの愛も、カレとの子供も、カレとの幸せも。
……だから、あの男の子供とカレが手を繋いで歩いているのを見たときは、……もう、言葉にできないくらいの……。いえ、なんでもないわ。
けれども、その事がきっかけで、あの男は私から離れていったわ。
最初に路地裏で、手を出された時に発狂しておけばよかったわ。
あの男は私から奪っていくだけじゃなく、私にあなたを育てさせた。
好きだったカレとの子供じゃない。カレには嫌われた。
けど、あなたは私を母親にしてくれた。
最初はあなたも憎かったけれど、私は、いつからかあなたを愛していたわ。
血が繋がってなくなって、あなたは私の子供だもの。
母は微笑みました。
彼は泣きました。
そして、言いました。
もう、……遅いんだよ。今さら……。
母は言いました。
そうね。少し、遅かったわ。
彼は母の喉を切りました。
母は微笑みながら、血に染まっていきました。
◆
彼は家を飛び出しました。
外は雨が降っていました。
全身血まみれで、怪しい彼を、誰かが通報したのか、サイレンが聞こえてきます。
ウーウー、ザーザー、ウーウー、ザーザー。
雨とサイレンが混ざってとても不快な音でした。
けれども、彼は、気にすることなく、歩き続けました。
彼は羨ましがりました。
あの父、彼女を。
彼女らは最後まで愛し合っていた。
彼は羨ましかった。
そして、彼は謝りたいと願いました。
彼女らは幸せな日常を壊してしまった事を。
彼は近づくサイレンの中、体にナイフを突き立て、苦しみながら死にました。
◆
4人は、死という形で愛を確かめ合いました。
彼女は父を。
父は娘を、そして、母を。
彼は、母を。
母は父と、彼と彼女を。
みんな最後は幸せでした。
彼も、母の愛を受け取り、苦しみながらも幸せでした。
苦しみながら死ぬことが、少しの謝罪になれば、彼はそう考えました。
けれども、謝罪は誰にも届きませんでした。
なぜなら、誰も彼を恨んでいなかったからです。
繰り返しますが、4人は幸せでした。
例えどんな形であれ、4人には愛があったのです。
4人は、幸せだったのです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
私の初のヒューマドラマ作品です。
どうでしたでしょうか?面白かったですか?
これからもこういうのは書いていきたいと思ってます。
理由は、書いてる私が感動しながら書いたからです。感動最高。
※捕捉
作中で「彼女」と「少女」が混合されておりましたが、あれはあえてです。女の子が怯えているシーンで「少女」普段通りなら「彼女」という感じで使い分けておりました。お気づきいただけたでしょうか?
「父」と「カレ」は同一人物です。「彼」とは別人です。