第96話 ダーク・メイジ
「よし! 第二射にかかるぞ。準備しろ!」
デーモンの声に応じて、2匹目のオークが連れられてきた。
このオークは1匹目の最期を見ていたようである。周囲が何と言おうと大声をあげ、逃げだそうともがき続けた。
「おい、メイジ隊、何とかしろ」
デーモンが命じると、オークに魔法が飛んできた。するとオークはその場でぐーぐーと眠ってしまった。おそらく眠りの魔法だろう。
魔法が飛んできた先に目をやると、そこには全身を黒いローブで包んだ魔法使いたちが数十人固まっていた。顔はフードの下にあって分からない。
「いいか魔法使いども、合図とともに魔法を撃て。直後に投石機だ」
命令を受けた各員が持ち場につき、周囲は一瞬静けさに包まれた。
デーモンは手を頭上に掲げ、それを一気に振り下ろした。
魔法使いたちの手から、崖の上に向けて魔法が放たれた。
その魔法の弾道は先ほどのオークと同様バリアーに阻まれたが、いくつもの魔法の攻撃を受けて、その防御の光りは少し弱まったように見えた。
「発射!」
眠ったままのオークが空中に放たれた。まだ寝ているので悲鳴はない。そして今度は特に何の障害もなく崖の上に消えていった。
再び周囲に静寂が戻った。
成功!?
オークはバリアーの弱まったところを抜けていったように見えた。
これもまたデーモンの狙いどおりだったのだろうか。
やがて崖の上から微かに金属音が聞こえ、ギャッという叫び声が続いた。
その後崖の上から何かが落ちてきた。
第二射で打ち上げられたオークだった。
既に息絶えており、身体には複数の刺された傷があった。
「ふふふ、エルフどもめ」
デーモンが呟いた。
オークの打ち上げは第二射で終わった。
というのも投石機がオーガーの力に耐えかねて、一部にガタつきが認められたからだ。
「もっと耐久性を上げるんだ。いつ直せる?」
デーモンは魔法使いの一人を呼びつけた。
「1週間以内には改良致します」
「遅い! 三日で仕上げろ。明後日の朝が期限だ。夜明けとともに総攻撃を仕掛けるぞ」
黒いローブの魔法使いは黙って頷いた。
そのとき丁度オレの目は、ローブの中の顔が見える角度にあった。
「あれは、人間?」
オレたちはその場を離れ、モンスターたちのキャンプから十分な距離を取った。
ゲネオスが言った。
「遂にエルフたちに追いついたが、大変なことになっていたね」
オレは答えた。
「ああ、まさにモンスターに囲まれて籠城中だったとは。しかもあの魔法使いはなんだ? 奴らの魔法でバリアーが弱まったように見えた」
「あれは暗黒の手先に堕ちた魔法使いたちだ。ワシらはダーク・メイジと呼んでいる」
マスキロが言った。




