第95話 攻城戦のこちら側
「何に使うか、、、だと?」
デーモンはギロリとオレたちを睨みつけた。
「運送屋ふぜいがそんなことを訊いてどうする?」
ここでもパマーダが慌ててフォローに入った。
「いえ、このように充実した軍隊がありながら、なぜオーガーをお取り寄せになったのかと思いまして」
デーモンは答えずオレたちを見ていたが、やがて椅子から立ち上がると、
「いいだろう。では見せてやろう。そのオーガーを連れてこい」
と言い残し、表に出ていった。
オレたちはすぐに追いかけたが、デーモンは既に崖の下の辺りにいた。
そこには木組みの装置があり、長い木の柄が備え付けられているのが目を引いた。木の柄の先には軽くたわんだ布が結わえ付けられている。
「あれは何だ?」
「投石機のように見えるわね」
とパマーダが答えた。
デーモンが手を上げると、オークが1匹連れられてきた。
そのオークは投石機らしきものの先に取り付けられた布の上に置かれた。
なにやらキーキー声をあげているが、デーモンの配下たちに制されると大人しくその場に留まった。
「オーガーをこちらに回せ」
デーモンの指示で、オーガーはオレたちの手を離れ、オークが置かれたところと反対側に当たる、木の柄の根本周辺に連れていかれた。そこで何やら指示を受けている。
「よし! まずは一射撃ち込むぞ」
デーモンの指示があると、周りにいた配下たちがオーガーに対して大声で命令を伝えた。
オーガーは両の拳を振り上げると、木の柄の根本の辺りに振り下ろした。
木の柄は梃子の構造になっており、振り下ろしたのと逆側が跳ね上がると、そこに置かれたオークがほぼ真上に飛び出していった。
オークは我慢しきれず、大きな悲鳴を上げた。
打ち上げた瞬間は真上のように見えたが、やがて緩い放物線を描くように、崖の上の方向へと近付いていった。
丁度崖の上に到達しそうになったとき、オークの周辺の空気がキラリと光り、オークの動きが止まった。
オークは最初の悲鳴よりも大きい声で絶叫し、そのまま落下してきた。
途中崖に何度か接触し、やがてオレたちの近くまで転がり落ちてきた。
既に死んでおり、その身体は黒焦げだった。
「弾道の計算は完璧だったな」
デーモンはオレたちに振り返るとニヤリと笑った。
「投石機はできたのだが、あいにくそれを動かす動力が見つからなくてな。それでオーク・エクスプレスに問い合わせたのだ」
デーモンは満足げに説明した。
「マスキロ、今のは何だ?」
オレはデーモンに悟られないよう小声で尋ねた。
「バリアーだ。おそらくエルフたちが山の城の周辺に張ったものだろう」




