第93話 モンスター・キャンプ
「ん? よく考えるとこのためにオーガーを預かってきたんだ。堂々と進もう」
オレたちはあらためてモンスターの中に飛び込んでいった。
そこは不思議な空間だった。
森を出たところは平坦な土地が広がっていた。森を出て直ぐのところは最近気を切り倒してできたと思われる切り株がいくつもあったので、この空間も最近広げてものと思われる。
その先には切り立った崖が上空に向かってそびえ立っていた。先ほどの幻の岩壁よりも遥かに高い。崖の上がどうなっているのかはここからは見えない。
そして崖の下には数多くのモンスターがキャンプを張っていた。オークが一番多く、至る所を動き回っている。レッサー・デーモンのような、これまで倒してきたモンスターもいた。
そうしたモンスターたちは、土木作業をしていたり、倒してきた木を使って何かを作ったりしているようだった。レッサー・デーモンが鞭を振るい、オークがそれに従っているケースがほとんどだったが、たまに周りより一回り大きなオークが現場責任者の役割を担っていることもあった。
驚くべきことに作業者の中には人間も混じっていた。彼らはほぼオークと同じ扱いである。背の高さは頭一つオークより大きいが、体重はそれほど変わらず、むしろ頭が悪い分決して休みを取ろうとしないオークの方が、人間よりも高いパフォーマンスを発揮しているようだった。オークの隊長が人間に鞭を振るうパターンもあった。その人間は痛みと疲労からその場で動けなくなっていた。しかし人間でリーダーをしている者はなかった。
巨大な昆虫類もいたが、これは数が少ない。平坦な土地と森との境目で見かけたので、他の虫たちは森の中まで入り込んでいるのかもしれない。
巨大なクワガタが複数体で大木を取り囲んでいると思ったら、その顎を使って根本から大木を切り倒してしまった。別の虫がその木を引きずって、土木作業をしているところまで運んでいった。
オレたちはその中を堂々と歩いていった。オレたちが近付くと皆視線をこちらに向けるが、後ろにいるオーガーを見るとすぐに目をそらしてしまい、特に誰何はされなかった。
逆にオレたちは土木作業の輪から少し外れて油を売っているオークを捕まえ、オーガー輸送の注文主の名前を伝えた。
「オークたちはどうしてこうもまあバカなのかしら」
しばらくしてパマーダが悪態をついた。
「知らないなら知らないと言ってくれた方がよっぽどマシだわ」
オークたちの案内は全くアテにならない。彼らが示す先に進むこと十回近くに及んでも、まだ目的の場所にはたどり着かなかった
結局依頼人の居場所を教えてくれたのは、鞭を打たれて地面にうずくまっていた人間の奴隷だった(パマーダが周りに分からないように癒やしてやった)。




