第92話 反魔法の領域
マスキロが呪文を唱え終わると、不思議な変化が起こった。
目の前にあった岸壁の色が、どんどん薄れていったのだ。
やがて岩壁は完全に消え去り、背の高い針葉樹の森が姿を現した。
左右を見ると少し離れたところの岩壁が、中途半端に半透明になった状態で空間に浮かんでいる。
オレは森に向かって足を踏み出した。
空気が少しひんやりと感じた。日が当たらないためだけではなく、オレたちは実は、かなり高い標高まで登ってきていたようだ。
振り返って今までいたパティオゾーンを見ると、折れた木々が重なりあって空間を作っていた。確かにそこだけ日の光が差し込んでいる。
折れた木々は黒く焼け焦げていたので、火災か、もしくはかなり大きな落雷があったものと思われた。
その先の道が三つに分かれているところは、カウンターマジックの効果があまり届いていないようだった。
しかしぼんやりとながらその先を見ることができた。こちら側と同じく森林が続いているようだ。
ただ少し木々がまばらになっており、3箇所ほど入り口のように木々が開いた部分があった。
パマーダとミラヤもこちらに合流し、周囲を興味深げに眺め回していた。
「私たちは木々の間をぐるぐる回っていただけなのね。元々道なんかないから、結局最初の場所に戻ってしまう」
「このオーガーは幻影に気付いていたんだね」
ゲネオスが言った。
「いや、バカすぎて眼が開いているのに何も見えていないんじゃないか」
とオレが言った。
「けどまあそのおかげで先へ進む道が見つかったわけだし」
このオーガーはオークたちが林の中を彷徨うのを、何の疑問を感じず、ただひたすら一緒に歩き続けていたというわけか。
「もう面倒だからこいつを先頭にして進んでみるか」
そんなわけでオレは鎖を持つ係をゲネオスと交代し、オーガーを先頭にして進んでいった。
オレたちはとりあえず道らしきものが続く方向に森の中を進んでいった。
勾配が徐々に急になり、木々に邪魔されて道も細くなっていった。
ミラヤもかなり歩きづらそうにしている。
「困ったな。ミラヤはどこかに置いていくことになるかもしれない」
「この子は賢いから、クレーネの街まで一人で戻ることはできると思うけど。ただ私たちがいなくなったとき、すぐに街まで戻っていってくれるかしら?」
もしミラヤがすぐにその場を立ち去らなければ、モンスターの餌食にされかねない。
そんな心配をした直後、不意に木々が開けた場所に出た。
今度は先ほどのパティオよりもはるかに広い空間だ。
しかし出たと同時に慌てて森の中に戻った。
その場所は大量のモンスターが充満していたからだ。




