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第80話 アクリスの処刑

大蠍の死体が横たわる。

アクリスは蠍の狩り場に敷かれた砂の上に膝を付いて屈み込んでいた。

オレ達はノロノロと立ち上がり、やがてアクリスを取り囲むように集まった。

誰も口を開かない。

「アクリス……」

オレが声を掛けた。

一瞬顔を上げたアクリスを見ると、彼女の眼は人族のそれに戻っていた

「これは……罠……いや」

頭の中がグルグル回っていた。


オレ達は危うくモンスターの餌食にされるところだった。

そしてそれはこれが初めてじゃないはずだ。そう初めは……

「モンスターをクレーネに導き入れたのもお前なのか?」

アクリスは身動きしなかった。

そしてゆっくりと口を開いて話し始めた。

「ある夜、この大蠍に襲われました。それ以来私はモンスターに操作されるようになったのです。しかし自分が何をしたかは覚えています。そのために誰が命を落としたのかも」

アクリスは指が焼け落ちた手のひらを差し出した。

「指を失ったこの手では、短剣を(つか)んで(のど)に突き立てることもできません。どうかお願いです。私の首を()ねてください」

オレ達は顔を見合わせた。

彼女は責めを負うべきなのだろうか?


「お願いします。私はもう生きてはゆけません。操られていたとは言え、私は人を殺し過ぎました。古くからの知り合いで命を落とした者もいます」

オレ達の心情を察するように、アクリスが言った。

仲間の視線はやがてゲネオスに集まった。

「……分かった」

ゲネオスは答えたが、その答えがアクリスに対するものかオレ達に対するものかは分からない。

アクリスはひざまずいた姿勢で首を前に差し出した。

ゲネオスはその横に立ち、剣を上段に構えた。

蠍の狩り場を一陣の風が通り抜ける。

時間が過ぎるのがもの凄く長く感じる。

しかしゲネオスは動かない。


ゲネオスはやがて剣を下ろしてしまった。

「ゲネオス、オレが代わろう」

「……すまない、サルダド」

場所を入れ替え、今度はオレがアクリスの横に立った。

シミターを上段に構えたとき、これは今までで最も辛い”戦い”になることを悟った。

オレは目をつぶって、アクリスが手に掛けた人々を想像しようとした。

そしてモンスターを街に引き込んだとき、どのように人々が殺されたかを。

大蠍の姿が思い浮かんだ。

しかしアクリスを楽にしてやるにはこれしかないと、必死に自分を納得させようとした。


オレは目を開き、一度剣の柄を強く握りしめ、そして最も刃が走るところまで握りを緩めた。

今だ!

オレはシミターを振り下ろした。

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