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第79話 蠍の毒

アクリスは疲れを忘れて湖に近付くと、手のひらで水をすくった。

透明な水だ。

手をゆすいでから、もう一度手のひらで水をすくい、今度はそれを飲み干した。

渇きが(いや)やされると、湖の水で顔を洗った。

ふと気が付くと、アクリスを湖に導いた虫はいなくなっていた。


アクリスは元来た道を戻った。

その頃には砂の中から抜け出すことができた人々が集まっていた。

アクリスは王妃さまを見つけ、その前に進み出た。

「アクリス、どうしたの?」

王妃さまが問い掛けると、アクリスは水で満たされた革の水筒をグイッと前に突き出した。

「王妃さま、水があります。オアシスです」


クレーネと名付けられたオアシスの街に、夜の帳が下りた。

アクリスは街の外れの小さな家に、一人で暮らしている。

オアシスの発見依頼、人々は湖畔(こはん)に街を築いた。

ノトスの探検隊が数百年もの間見つけられなかった湖だ。

頻繁に姿を変える砂丘に囲まれていたためだろう。

しかし一度見つけてしまうと、モンスターの目を逃れるのに非常に好都合であることが分かった。


その夜、アクリスは夜中に目覚めた。

美しく鳴く虫の声が聞こえたからだ。

最後に虫の声を聞いたのは何百年前だろうか?

もうエルフや長命のハーフ・エルフでないと、アクリスが子どもだった頃を知る者はいない。

「これは、、、虫の声?」

一瞬虫の声が止んだ。しかししばらくするとまた美しい声が響いた。

「いいえ、おかしいわ。こんな砂漠の中にこんなにも美しい声を響かせる虫がいるはずはない」

虫の声は、その後も時折休みを挟みながら聞こえ続けた。


アクリスは懐かしさから、寝間着にショールをまとって外に出た。

虫の声は城壁の外から聞こえてくるようだ。

アクリスは隠しの扉(エルフの技術だ)を通って城壁の外に出た。

近くにある植物の茂みに当たりを付け、アクリスは城壁を離れた。

闇の中、鈍く光る二つの眼があることに、アクリスはまだ気付かない。

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