第75話 ノトスの港
人々は何代にも渡る逃亡生活の中で、徐々に南の方へ追い詰められていた。
森の中の街が攻め落とされると、その先には海しかなかった。
エルフと人間はずっと船を造っていた。まるでこの日が来ることが分かっていたかのように。
「出港!」
人々は逃げるように船に乗り込み(そして実際に逃げてきた)、行く先も決まらぬまま外海に繰り出した。アクリスと父さまは一隻の船に乗り込んだ。
「南へ!」
それだけが王の指示だった。
航海は何週間も続いた。
海上のモンスターは強力だった。
多くの仲間が死んだ。
やがて陸地が見えたとき人々は歓声を上げた。
その中にアクリスと父さまの顔もあった。
乾燥した空気の吹き付ける土地だったが、大河が流れる河口付近は多くの緑に覆われている。
河口から少し離れたところに、背後を丘に守られた土地があった。
人々は舵を切ってその方向に向かい、慎重に船を着けられる場所を探した。
運が良いことに、その辺りには外海からの雨風を遮る入り江があった。
入り江の中の海は深く、大河が運ぶ土砂によって海底が埋まる心配もない。
エルフと人間の船団は入り江の中に船を進め、やがてそれぞれ良いと思うところに停泊した。
人々は船を降り、初めて南の大地を踏みしめた。
王が言った。
「この地を南の港と名付けよう。そしていつかまた北の国に帰ろう」




