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第73話 父さまと母さま

アクリスはエルフの父と人間の母の下で生まれた。

両親に似て美しい女の子だった。

南の海にほど近い森の中、数百人が暮らす街は、エルフと人間が混在している。

そこに小さいながらもしっかりした石造りの家があり、アクリスとその両親が一緒に暮らしていた。

「アクリス、何をしているの?」

家の中でしゃがんで何かしているアクリスに、父さまが後ろから声を掛けた。

「あ、父さま、この虫はとても良い声で鳴くね」

見ると虫たちを家の中に持ち込み、そのうち一匹を手のひらの上に置いて、その鳴き声に耳をそばだてていた。

確かに声は綺麗だが、濃い褐色の小さい虫たちは決して美しいとは言えない姿をしている。

父さまはそれを見て、少し眉をひそめながらこう言った。

「アクリスは変わった子だね」


そして実際アクリスは変わっていた。

アクリスは年を取らなかった。

年月が過ぎ去るにつれ、それはますますはっきりした。

エルフやハーフ・エルフの成長は、成人するまでは普通の人間と変わらない。

しかしアクリスは10歳を超えた辺りから、少女のままの姿でピッタリと成長が止まってしまった。

これはハーフ・エルフの中でも珍しかった。

街の人間たちは、

「あの子は実はエルフなんじゃないか?」

「あの子はハーフ・エルフなのに不死(イモータル)なのかもしれない」

と噂し合った。


同じ年頃の人間やエルフが成人していく中、アクリスは少女のような濁りのない笑顔を(たた)え続けた。

実際には彼女は友達よりも早く、大人の心を身に付けていたのだが。

父さまはいつまでも若々しいままなのに、母さまは年月の積み重ねを少しずつ顔や身体に刻んでいっている。

アクリスはこのことを、子どもの頃から気付いていた。

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