第72話 重い一撃
オレは大蠍の目を見てニヤリと笑った。
次の瞬間、愛用のグラディウスが、大蠍の口の中を突き刺していた。
「悪いな。剣はもう一本あるんだ」
大蠍は何が起こったのか分からず、身もだえている。
「古い剣も捨てずに取っておいてよかったよ」
シミターを買ったときに古いグラディウスを下取りに出すこともできたのだが、その頃には愛着が湧いてきていたので捨てきれなかったのだ。
金属製の大楯の裏にグラディウスの鞘が丁度収まることが分かったので、これ幸いとそのまま携行していた。
ただグラディウスを仕込んだ大楯を試しに持ってみたゲネオスは、その重さに顔をしかめていたが。
蠍の毒が回ってミョルニルとシミターを失ったが、ギリギリのところで一角獣の角の効果が間に合った。
懐に入れた一角獣の角の辺りから身体がぽかぽかと暖かくなり、それが全身に広がっていくと、毒による痺れや麻痺はすっかり溶けてなくなっていた。
「マスキロ、この一角獣の角はなかなか効果が出ないな」
「もうだいぶ古いからな」
利き手の自由が戻るとすぐ、最後の剣を盾の後ろから取り出したのだ。
「ミョルニル!」
オレはグラディウスを大蠍に突き刺したままにして、利き手を肩の高さに上げ、手のひらを開いた。
すると、アクリスのそばでピクリとも動かなかったミョルニルが勢いよく空中に飛び上がり、オレの手の中に返ってきた。
ゲネオスやパマーダは呆気に取られている。
オレもなぜミョルニルが引き寄せられたのか分からなかったが、そのときはなんとなくできるような気がした。
ミョルニルはもう元の色に戻っていて、全く熱くない。
「こいつが欲しかったのか?」
ミョルニルをしっかりと握りしめると、そのまま大蠍の頭部に打ち下ろした。
ベキベキベキベキッ
固い殻ごと大蠍の頭部が潰れた。大蠍は断末魔の叫びを上げることさえできない。
反り上がっていた尾はうなだれるように地面に横たわった。
もう大蠍は動かなかった。
戦いの帰結は一瞬で決まる。
そう思って戦闘シーンはスピード感を持って書こうと思ったら、想像以上にあっさり決着してしまいました。すいません……
このお話をもって、『第5章 砂漠のエルフ(上)』が完結しました。
読んで頂いた皆さま、どうもありがとうございます!




