第68話 マスキロのレアアイテム劇場
宿屋の2階に上がる前、オレはマスキロを呼び止めた。
「マスキロ、ちょっと相談があるんだ」
「ふむ」
ゲネオスとパマーダは明日早いので早く寝させてやろう。
オレ達はまだ喧噪の余韻が残る酒場で2人分の席を見つけた。
「実は現在オレは2連敗中だ」
「そうじゃったか?」
「ああ、2連続でモンスターに眠らされた」
アリジゴク親子の毒で、2回連続で落ちている。
ただし俺以外のメンバーも前回は全員やられた。
「この眠り毒に耐性を付けることはできないだろうか?」
マスキロは少し考え込んだ。
「ふ~む、パマーダに治してもらえばよいのじゃが、この前は全員まとめてやられたからの」
「そうなんだ。そうなると全滅必至。こないだはミラヤのおかげで助かったが」
「あのときはワシも不覚を取った。通常であればあのような毒にかかることはないのじゃが」
「どういうこと?」
「しばし待てよ」
マスキロは立ち上がると両腕をふわりと持ち上げた。
そのままくるっと身体を回転させると、次の瞬間マスキロのローブは白から黒に変わっていた。
たまたまそれを目にしていた酔っ払い客が椅子から転げ落ちた。
すぐに別の客に助け上げられたが「どうも飲み過ぎたようだ」と、テーブルに突っ伏してしまった。
マスキロはローブの中に手を入れて、しばらくすると何やら細長い棒状のものを取り出した。
「持ち歩くのも邪魔なので、この黒い方のローブの裏に縫い込んでいたのじゃ。しかしなんたることか、ローブを替えたときに移すのを忘れておった」
それは、30センチほどの棒で、先に行くほど尖っていた。
色は紫や白や黒が混じり合って、先に向かってらせん状の模様を描いていた。
「これは?」
「一角獣の角じゃよ。これがあれば大体の状態異常は無効化できる」
「おお」
一角獣の角はかなり使い込まれた風合いをしていたが、汚れはなく、独特の鈍い輝きを放っていた。
「これを得るには並大抵の苦労では足りぬぞ。一角獣は、その……一定の条件を満たす女性にしかその身を触れさせんからの」
一定の条件とは何だ?と思ったが、何となくその話は聞いたことがあったので深くは追及しなかった。オレの知識は物語レベルのものではあったが。
マスキロは一角獣の角をオレに向けて差し出した。
「おぬしが持っておくか?」
「いいのか!? それはありがたい!」
ただ一つ気になることがある。
「これがなくてマスキロは大丈夫なのか?」
「構わんよ。ワシはこの杖がいざというとき助けてくれるでの」
そう言ってマスキロはテーブルに立てかけておいた杖を撫でた。
これまで特に気にしていたかったが、オレはあらためてマスキロの杖を眺めた。
……残念ながら、何の変哲もない杖に見える。
多少年季は入っているが、木でできた普通の杖だ。宝石が埋め込まれるでも、何らかの紋様が刻まれるでもなかった。
「その杖には何か特別な力があるのか?」
「これか? これは変化の杖じゃ」
「変化の杖!?」
オレはまた杖に目をやった。
やはり全くもってありふれた杖だ。しかしそれが変化の杖の変化の杖たる所以なのだろうか?
「変化の杖……ということは、人を変身させたり、モノを別のモノに変えたり、ということができるのか?」
「変身させる? ふむ、まあそういうこともできぬではない。しかしこの変化の杖はもう少し違うところに力点を置いておる」
「例えば?」
マスキロはすぐには答えなかった。
しばらく間を置いてからマスキロが口を開いた。
「やがてそれを知ることもあるじゃろう。今はその一角獣の角をしまっておくがよい」
オレ達も2階に上がり、明日の冒険に備えた。




