第67話 ハーフ・エルフ
「どうされたのですか?」
オレ達が誰も返答しないのを見て、少女が再び口を開いた。
「いや……その……貴女がアクリス殿ですか?」
ようやくゲネオスが返答した。
部屋に入ってきた少女は10代の前半に見えた。
「はい、私がアクリスです。どうぞお掛けください」
そう言ってアクリスはオレ達に席を勧めた。
ゲネオスとパマーダは長椅子に、オレとマスキロは長椅子の向かいにあった一人掛けの椅子にそれぞれ座った。
アクリスはその奥の小さな椅子に腰掛けた。
質素な椅子に見えたが、座面や背もたれに施された美しい刺繍を見ると、実はこの椅子が最も価値のあるものなのかもしれない。
オレは再びアクリスに目をやった。
確かに見かけは若い、というよりも幼いと言った方がいいかもしれない。
しかしその物腰は柔らかく、部屋に入ってくるときの歩き方、椅子への腰掛け方も優美である。少女のそれには見えなかった。
「私の容姿に驚かれましたか?」
「はい、もう少し……その、お年を召した方かと」
ゲネオスが最大限丁寧な言葉を選びながら、ゆっくりとした口調で答えた。
「私はハーフ・エルフなんです」
「ハーフ・エルフ!?」
「はい、エルフの父と人間の母の元に生まれました」
「そうだったのですか……」
オレはエルフを見たことがなかった。
遠い異国にはエルフがいるということは聞いていたが、オレにとってそれは物語の世界のような話だ。
それがハーフ・ブラッドとはいえ、エルフの血を引く者が目の前に現れるなんて……。
あらためてアクリスを見る。
アクリスもこちらを見て、オレと目が合うと柔らかく微笑んだ。
「長命のエルフの血を引いておりますから、こう見えてもあなた方のどなたよりも年上だと思いますよ」
それを聞いてマスキロが「くっくっく」と笑いをかみ殺した。
アクリスは話を続けた。
「皆さんに来て頂いた理由は既にお聞き及びかと思います」
「はい、護衛が必要とか」
「そうです。この街を出て2時間ほどのところに小さな祠があります。そこまでの道のり、私の身辺を警護して頂きたいのです」
「報酬は?」
「一人当たり1000ゴールド相当の宝石を」
悪くない。プエルトの料理対決の報酬が高すぎたのだ。
「分かりました。それでいつ祠に行かれるのですか?」
ゲネオスが尋ねた。
「明朝この屋敷にお越しくださいますか?」
「承知しました。お付きの方はいらっしゃるんですか?」
「いえ、私一人で参ります」
少し違和感を感じた。オレ達は彼女にとっては初対面の冒険者だ。そんなに気を許していいのだろうか?
しかしゲネオスはそれには構わず次の質問をした。
「駱駝は連れて行っても構いませんか?」
その質問に対して、アクリスは少し困ったような顔をした。そして少し考えてからこう答えた。
「構いませんが、できれば宿に置いていかれた方が良いでしょう。駱駝も疲れておりましょうから、城壁に守られたこの街で休ませてあげるのが良いと思います。駱駝に運ばせるような荷はございません」
「分かりました。そのように致しましょう」
話が済むと、オレ達は屋敷を後にして宿屋に戻った。




