第60話 砂嵐
強い日差しの反射によってキラキラと輝いて見えるそれは、上空から落ちてきた粉であった。
「鱗粉か」
オレはすぐに気付いた。
上空の羽虫達はすぐに降りてくるでもなく、不規則に飛び回りながらも、なぜか仲間同士では衝突することなく、その場に留まっていた。
そしてその羽虫達が羽ばたく度、少量の鱗粉が振りまかれていたのだ。
オレ達は何もすることができず、その光り輝く鱗粉越しに羽虫の編隊を眺めた。
しかしオレは突然強烈な眠気に襲われた。
朦朧とする意識の中で、オレは冷静に物事を考えようとした。
「そうか、これはアリジゴクと同じ毒だ。成虫になっても毒腺は消えないのか」
僅かに吸い込んだ鱗粉が眠りを引き起こしたのだ。
幼虫のアリジゴクと違い、成虫の羽虫にはこれといった攻撃手段がないように思えた。
確かに身体は大きいが、初撃と第2撃から見ると、大顎がない分攻撃力はアリジゴクより劣る。
だから初めに相手を眠らせて、その後じっくり味わおうというのだろう。
この頃にはオレはもう一人で立っていられなくなり、その場に崩れ落ちた。
瞼が閉じる直前に辺りを見回したが、ほかの仲間も鱗粉による眠りに引きずり込まれているのが見えた。
パーティーは全滅だ。
サルダド達が毒で眠らされた後、羽虫達はすぐには襲ってこなかった。
それどころか空を飛んでいた羽虫達は鱗粉を撒いた後、上空で方向転換して元来た方向に帰って行った。
羽虫が帰った反対側を見ると、砂丘の先の空が濁ったような色になっている。
砂嵐だ!
そのときミラヤがむくりと起き上がった。
辺りを見渡して、サルダド達が倒れているのを認めると、パーティーのメンバーを引きずって一箇所に集め始めた。
そして駱駝の口を巧みに使って荷物の中から毛布を取り出し、サルダド達を覆うようにかぶせた。
ミラヤは砂嵐に背を向けて、毛布の端を押さえるように座り込んだ。
さらに首を毛布の上に置き、できる限り毛布が動かないようにした。
あんなに激しく照りつけていた太陽が姿を消し、辺りは暗くなった。
もう視界はほとんど失われ、1メートル先も分からない。
砂嵐が到来した。




