第58話 羽虫の編隊
アリジゴクの毒から目覚めた後、しばらく休んでからオレ達は出発した。
相変わらず日差しは強く、歪んだ空気を通してしか遠くを見ることができない。
オアシスらしい姿は全く視界に入らなかった。
先ほど小休止を取った岩山がある一画から先は、障害物のない単調な砂漠が続いている。
しかし、砂漠に入ったときは遠くに見えた砂丘が、まだ多少の距離はあるものの、今やパーティーの前にそびえ立つようになってきた。
砂の稜線が連なっているのがハッキリと見える。かなりの距離を歩いてきたことは間違いない。
そのとき、今までオレ達を引っ張るように歩いていたミラヤが立ち止まった。
そして少し戻って後ろの方へ行き、落ち着きのない様子で地面を前脚で掻き始めた。
「ミラヤ? どうしたの?」
ゲネオスが声を掛けても、ミラヤは振り返ることなく、前脚を忙しなく動かし続けている。
「何かあったのか?」
今度はオレがゲネオスに尋ねた。
「分からない。ただ何か気になることがあったみたいだ」
「どうしたんだろうな。怪我でもしたのか?」
オレはミラヤのところまで行き、胴の部分を手でポンッと叩いた。そして何の気なしにミラヤが見ている方向に目をやった。
青空の中に小さな黒い影が見えた。
最初はオレ一人、何も言わずにじっとそれを見ていたが、その影は少しずつ大きくなっているような気がした。
「ゲネオス、あれが見えるか? あの空の中の、妙な黒いやつなんだが」
ゲネオスやほかの仲間も同じ方向を向いて、オレが言う黒い影を目で追った。
「これはマズいな」
最初に口を開いたのはマスキロだった。
その頃には黒い影はさらに大きくなっていた。
それとともに、黒い影は一つではなく、いくつもの影が重なり合ってできていることに気付いた。
バラバラになった黒い影がさらに近付いてきた。もうその影が何であるか見える。
数十匹の巨大な羽虫の編隊であった。




