表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/218

第51話 緊急手術

さすがに砂漠の商人は抜け目がない。

おそらくはどこかから使い物にならない駱駝(らくだ)二束三文(にそくさんもん)で仕入れてきて、1万ゴールドを丸々利益にしようというのだろう。

しかし感心している場合ではない。こんな駱駝を渡されては詐欺(さぎ)も同然だ。


オレはもう一度シミターを抜こうか悩んでいたが、パマーダが黒い駱駝の周りグルッと回って何か観察しているので、まだ動き出さなかった。

駱駝が引きずっているのは左の後ろ脚だ。

パマーダは(もも)の付け根とお尻の辺りをずっと触っていた。

「ゲネオス、ちょっと手伝ってほしいんだけど」

パマーダはこちらを振り返って、ゲネオスに声を掛けた。

「私が痛みを止めるから、駱駝のここの皮膚を切ってほしいの、その短剣で」

ゲネオスは、右の腰に差した短剣に手を置いた。

「スティングのこと?」

「そうよ。うちのパーティーの刃物の中で一番鋭そうだから」

パマーダは早く早くと(うなが)すような仕草をした。

「、、、分かった」


(さや)から抜かれたスティングは、始め青白く輝いていたが、ターゲットが目の前の駱駝であることに気付いたのか、困ったように(またた)き始めた。

しかしそんなことには構わず、ゲネオスは短剣を持って駱駝に向かった。

「エルフの短剣はそっと触れるだけでよいぞ!強く切らずともよい」

マスキロが不意に声をかけてきた。

ゲネオスはそれには返事をしなかったが、言われたことは伝わったようだ。真剣な表情でスティングの刃を駱駝の皮膚に当てた。

周りを取り囲んでいた観衆がざわついた。

オレは手を上げ、声には出さず「静かに」というシグナルを送った。


スティングはただ当てただけなのに、刃がスッと皮膚に食い込んだ。

そしてゲネオスが短剣を引くと、すぐに20センチほどの裂け目を作った。

パマーダの魔法が効いており、裂け目からは血がうっすらとにじみ出ただけだった。

駱駝は痛みを感じておらず、ピクリとも動かない。

パマーダが頷くと、ゲネオスは短剣を駱駝から離した。

短剣に付いた血はあっという間に蒸発(じょうはつ)し、スティングは元の美しさを取り戻した。

そして「やれやれ」といった(てい)でその輝きを失わせ、ゲネオスが(さや)に収めるのを待った。


パマーダはその左手を裂け目に突っ込んだ。

オレを含めて全ての観衆が息を吞んだ。

パマーダはさらに手を押し込み、手首が隠れるまで駱駝の身体の中に沈めていった。

しばらくしてゆっくりと手を抜くと、その手で何かを握りしめていた。

拳大(こぶしだい)の血の(かたまり)だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ