第46話 ノトスの街
港の名前はノトスと言った。
この街は香辛料の集積地で、各種の香辛料がマーケットで売られている。
船員達は早速マーケットに繰り出したが、もっぱらプエルトから積んできた品々の販売ネゴを行っていた。
オレが「香辛料は買わないのか?」と訊くと、
「プエルトに帰る方法がないので、帰りの積荷をどうするかはこれからです。漕ぎ手を雇おうかとも考えていますが、その前にあの骨だらけの部屋をなんとかしないと……」
というわけで、夜のファンタスマ号あらため暁の女神官号は、しばらくノトス港に係留することになった。
ノトスの街は乾燥した地域の中にあったが、すぐそばを大河が流れており、その流域は緑も豊富であった。
しかし街から南下して行くにつれ、緑はまばらになり、やがて砂漠に変わるとのことである。
オレ達はここで装備を調えた。
プエルトで5万ゴールド稼いでいたので、買いたいものは大概買えた。
オレとゲネオスは遂に金属鎧となった。と言っても鎖帷子なので、金属鎧の中では軽い方である。
盾は金属製の大楯。前の戦いでパマーダを鉄壁の構えで守る必要に迫られた教訓から、盾はしっかり強化した。
ゲネオスのメイン武器は鋼の剣を維持。
オレは船の上でミョルニルが通じなかった経験から、もう少し大型の剣を新調した。
ゲネオスと同じ鋼の剣にしようと思ったが、ノトスでは売っておらず、同じ鋼鉄製の曲刀であるシミターにした。
愛用のグラディウスは大楯の後ろに仕込んでおくことにした。
これでミョルニルと合わせて三刀流だ。まあミョルニルは剣ではないが。
パマーダは小型の盾を新調。(「この間は熱くなっちゃったけど、もう前線には立たないから」)
魔法をかけるとき邪魔になるので、普段は背中に背負っている。あくまでも予備防具の位置付け。
なおパマーダは盾の表面の模様については相当こだわり、防具屋の店主に全在庫を持ってこさせ、かなり長い時間見比べてからようやく一つ選んでいた。
マスキロは「この街はろくなマナ・ストーンがないわい」とこぼしていた。
この街の背後は緩やかな上り坂が続いており、その先の高いところには荒れ果てた古城があった。
街の人に訊くと、「北のお城」と呼ばれていた。
城の建物自体はほとんど崩壊しており、当時の面影を知ることはできなかったが、その石垣は健在であった。
大小さまざまな石が、パズルのように組み合わされており、ナイフを差し込む隙間もないほどピッチリと積み上げられている。




