第45話 暁の女神官号
甲板に戻ると、先に上に上がった者も含め、全ての船員が揃っていた。
皆ひざまずいており、武器を持つ者は自分の前にその武器を置いていた。
「司祭様、船を幽霊から解放して頂き、ありがとうございます。どうか船長になってください。それが叶わないなら、せめて港までこの船を指揮してください」
パマーダは突然のことにどうしたものかと考えていたが、オレ達に小突かれて答えた。
「まあ次の港までなら……」
「おお、ありがとうございます! ならば早速この船に良い名前を付けてください」
「名前?」
「はい。この船の名前、夜のファンタステマ号がどういう意味かご存知ですか?」
「いいえ?」
「プエルトの古い言葉で『夜の亡霊』という意味なんです。この船に乗ってから、夜になるとずいぶん気味の悪い思いもしましたが、まさか本当に幽霊船だったとは」
「名前ねぇ」
パマーダが悩み込んでいると、マスキロが助け舟を出した。
「暁の女神官号はどうじゃ?」
おおっ、という声が船員達に広がった。
「ありがとうございます! その名前にします!」
そのとき、このところ凪いでいた海の上を、西風が吹き始めた。
「風だ!」
「これで進める!」
「司祭様、号令をお願いします!」
パマーダは声を張り上げた。
「みんな帆を上げて! 出発!」
「ようそろ!」
なお船長と死霊使いは翌朝には解放された。
ただ前夜はこの世の名残を惜しむ骸骨達が最後の宴を設けたらしく、二人は全く言葉や表情を失った状態で甲板に戻された。
船長は特に酷く、すっかり怯えてしまっている。
「骸骨が……『死んだら一緒に漕ごうね』って……うわぁぁぁぁっ……」
二人は船室送りとなった。
しかし夜の泣き声や叫び声は徐々に減り、数日後には全く聞こえなくなった。
船はなおも順風を受けて東へ東へと進んだ。
マストの上の船員が叫んだ。
「港が見えたぞ!」




