第41話 ネクロマンサー
まじない師は骸骨の漕ぎ手の間を通って、部屋の奥の方へ入っていった。
「一体何をしているんだ?」
まじない師が問いかけたのは、部屋の奥の中央に陣取る一人の男だった。
漕ぎ手に比べるとマシな服を身に付けているが、それでもかろうじて身体を覆っているだけという代物だ。
腰には鍵束を吊るし、手にはトゲの付いた鞭を持っている。
頭は剥き出しであった。不思議なことに顔は普通の人間と変わらなかった。ただ表情からは完全に生気が失われている。
よく見ると彼は柱にくくりつけられていた。
彼の両腕には手枷がはめられ、その手枷から繋がる鎖が天井の方へと続いている。
見上げるとそれは船の甲板の方まで伸びているらしい。
そうか!
この鎖が二つ目の舵輪に繋がっていて、舵輪を回すとその動きが鎖に伝わる。
それによって奴隷を鞭打つ向きを変えることで、船の針路を変えているようだった。
まじない師は手で印を結び、呪文を唱えてからこう言った。
「早く奴隷どもを鞭打って、正しい進路に戻せ」
パマーダがまたつぶやいた。
「ネクロマンサーだったのね……」
「ネクロマンサー?」
「死霊使いのことよ。この漕ぎ手の奴隷たちもそうだけど、奴隷の指揮者はレイス、つまり死者を蘇らせたモンスターよ」
「レイス……」
「だけどちゃんとした蘇生じゃないから、人としての感情や感覚は失われている。そのレイスを操って、この船を動かしている」
しかし、死霊使いが命じても、レイスは動かない。
「何をしている?早くしろ!」
「……プエルトにはいつ着くのだ?」
レイスが声を絞り出した。
「俺は来る日も来る日も奴隷を鞭打った。もう着いてもいいはずだ」
「もうじき着く。だから早く船の針路を変えろ」
「何を言う?船はプエルトに向かっているはずだ」
「……」
「どうしたのだ?プエルトに行くのだろう?」
死霊使いは再び呪文を唱えた。
「進路を180度変えるんだ!」
レイスは呪文の威力に耐えるようにしばらく動きを止めた。
やがてレイスは力を振り絞りながら、ゆっくりと発声した。
「……プエルトに行くのではないのだな?」
「……」
「……もう騙されないぞ」
レイスは身体を柱に縛り付けられているので動くことができない。
それなのに、腰にぶら下げた鍵束はガチャガチャと音を立て始めた。




