第36話 旧きモンスター
モンスターの胴体は半透明で、中のモノがぼんやりと透けて見える。
キラリと光る金属性の輝きがあり、一瞬だがその周りに人型のシルエットが浮かんでいるように見えた。
マスキロがモンスターの近くで魔法を使った。モンスターの動きが止まった。
「ゲネオス! モンスターの胴体を狙え! マスキロ! モンスターの目に強い光を当てられるか!?」
「光とな? ほほぅ、目つぶしか。ならばこれで」
マスキロは杖を振るった。
「皆の者、目を閉じよ! 閃光!」
杖の先から稲妻のような光線が放たれ、瞼のないモンスターの瞳を撃った。
ゲネオスは時間を無駄にせずモンスターに近付いていた。
閃光が放たれた瞬間目を閉じていたが、目を開いたときにはモンスターの胴体が目の前にあった。
ゲネオスは剣を突き刺したまま左から右に駆け抜けて、半透明の胴体を切り裂いた。
オレはミョルニルを投げた。
ミョルニルはモンスターの胴体に向かって飛び、ゲネオスが開いた切り口に飛び込んだ。
しばらくすると、ドロドロの体液に包まれた物体を引きずり出した。
それは白骨化した人間だった。頭に金色に輝く王冠を頂いている。
必然的にその物体は回転し、液体を皆の頭上にまき散らしながらオレの元に飛んできた。
ちょっと気持ち悪い……
骸骨は丁度マストの上でオレの隣に腰掛ける形で着地した。
オレは身構えたけれども、骸骨自体は動くことはなかった。
胴体を引き裂かれた上、体内から相当の物体を持っていかれたモンスターは、再び身体を動かし始めた。
しかし既にオレ達を攻撃する意思は失っているようだ。
残った触手を海中に沈め、胴体自体も船から離し、海の中に帰って行った。
甲板に降りると、オレは身体に相当のダメージを負っていることに気付いた。
「パマーダ先輩! 治療をお願いします!」
パマーダに癒しの魔法をかけてもらっている間、オレは疑問を口にした。
「一体あのモンスターは何だったんだ」
「クラーケンじゃな」
マスキロが答えた。
「クラーケン?」
「海に棲む旧きモンスターじゃ」
「死んだのか?」
「いや、傷を癒やすために眠りに就いたのじゃろう」
マスキロは続けた。
「クラーケンは長命じゃ。あれが何百歳から何千歳か、ワシにも分からなかった。最も旧いクラーケンは、不死のエルフがこの世に現れる前からおったというからの」
何千年……
周りにいた皆が絶句した。
「また襲ってこないだろうか?」
ゲネオスが尋ねた。
マスキロはカカカと笑いながら答えた。
「心配には及ばぬ。あれだけの傷を癒やすのじゃから、百年くらいは眠ったまま起きてこんじゃろう」




