第206話 力の指輪
エルフの王は遂に自ら語り始めた。
「エルフは何をしていたのかと思ったことはなかったか? しかしエルフは魔王と剣を交えたし確かな戦果をあげたのだ。実際に我々は魔王の肉体を滅ぼしたこともあるのだから。しかし魔王は自身が打ち破られる直前、その力や思念をすべて自身が持つ指輪に封じ込めた。すなわち魔王は『力の指輪』の中で生き続けることを選んだのだ。」
「力の指輪は長い時の中で力を蓄え、新たな所有者を見つけ、異界からデーモンを呼び寄せては再び地上の侵略を始めた。厄介なことに、指輪に封じ込まれたことで魔王は不死となった。しかも一度封じ込まれた思念が変化することはない。絶え間ない拡張への欲求が固定化され、その攻勢は決して止むことがなかった。」
「不死のエルフも徐々に圧迫され、ある者は戦いに破れ、ある者は病に倒れ、やがてこのような隠れ里に追い込まれてしまった。多くの若いエルフがこの地を旅立っていった。南のエルフはその一派だ。彼らは魔王の攻勢に見事耐えてみせた。しかしそれとて永遠の安全が保証されたわけではない。魔王は時間をかけ、再びかの地を滅ぼそうとするだろう」
「魔王は一体どこにいるんですか? ボクたちは苦労の末グレーター・デーモンを打ち破りました。しかしその本拠地を攻略したのに、その背後にいる魔王がどこにいるのか分からないのです。魔王の影すら感じられません」
ゲネオスが心に秘めていた疑問を明らかにした。オレも漠然と妙だなと感じていたのだがそれをうまく表現できないでいた。それをゲネオスがハッキリさせてくれた。
「ふむ、そうだな。それではこのように問いかけてみよう。其方たちは、なぜ初めの城の近くにいたモンスターが弱く、そこから離れれば離れるほど強いモンスターが現れるのか考えたことはないか?」
言われてみれば、初めの城やツギノ村周辺ではオークのような(今となっては)弱いモンスターしか見かけなかったが、だんだん通常エンカウンターするモンスターが強くなり、イマミアンド周辺では相応の部隊を組んで臨まないと、あっさり全滅してしまうくらいの強いモンスターがしばしば現れた。
「其方自身が領土拡張に明け暮れる王になったつもりになれば分かるだろう。侵略の最前線には強力な将軍を配置するだろうが、自らの周囲はそうではあるまい。其方は誰よりも強く、これといった苦労なしに自分の身を守ることができるのだから」
オレの頭にぞっとする考えがよぎったが、まだそのことを口に出して言うことはできなかった。




