第205話 エルフの王
城壁といっても山の斜面に沿って建てられているので、その内側は急な階段になっている。初めの場所からひたすら登りであったので、かなりの高さを一気に登ったことになる。城壁が終わると、おそらくは居住区であろう区画に入った。
この一連の建造物は、様々な形の岩石が、ナイフの隙間も入らないほど正確に組み合わされている。単に四角形の石を組み合わせたわけではない。五角形、六角形、七角形、いやもっと複雑な形に切り出された石も、周囲の石とぴったり合わさって石壁を構成しているのだ。
しかし城壁は所々崩れていたし、この居住区内も既に崩れ去った建物がそこかしこに認められた。
「これではまるで遺跡のようだな」
植物に浸食され、道のあるところだけ草木が切り裂かれているところもある。
下から見上げたときは何の欠陥もないように思われた城や尖塔も、近くによると手を入れなければとても敵の攻撃を防げないような部分がいくつもあった。
「こちらへどうぞ」
先導のエルフはそんなものにはいちいち構わず、まっすぐに城の中へと向かっていった。
やがて謁見の間と思われる部屋に進むと、そこにはエルフの王と思われるエルフが玉座に座っていた。そばには家臣と側使いを兼ねたようなエルフが、ほんの数人控えていた。
玉座の豪華さや丁度品の重厚さはノトスの城に勝っていた。しかしあまりにも人が少なすぎるせいか、正直に言うと、あまり王の住まいのような感じがしなかった。全体的になんだか老いている。そんな気がした。
玉座に座ったエルフが錫杖を手に立ち上がった。このエルフもまた白髪であったが、その顔は若者のように見えなくもなかった。しかしその目はややくすんで見え、決して普通の若者が備えているような目の輝きはなかった。
「よくぞ戻った。ゲネオス。いや、よう参ったか。それにサルダドとパマーダも」
「どうしてボクたちのことをご存じなんですか?」
ゲネオスが尋ねた。
「エルフが外界との関わりを絶って長い。しかし余は物見の球によって世界の様子を知ることができる」
「するとイマミアンドの解放やノトスの勝利についてもご存じなんですね?」
「ヴラカスの最期は承知しておる。しかし、物見の球の力は南の大陸までは及ばない。その話を聞かせてくれるかな?」
オレたちはこれまでの冒険をエルフの王に説明した。エルフの王はその間黙ってオレたちの話を聞いていた。
ノトスにおいてワイバーンを打ち破った勲の話になると、そばにいた家臣たちからは「おぉ」と感嘆の声が漏れた。
オレたちの話が終わると、エルフの王が再び口を開いた。
「すると南のエルフたちは女王を頂くことになったのか。しかも二度に渡って敵の侵攻を防いだと……。我々エルフにそのような力が残されていたのか? いや、違うな。其方たち人間の助けがあったからこそ勝利を得ることができたのだ」




