第203話 登山道
以前にも話したように、オレは目が良い方だ。大体のところ、知力と視力は相反する関係にあるらしい。ところがどんなにオレが目をこらしても、山脈の一部にぼんやりとしか見えない部分があるのだ。
オレは馬を並べていた若い兵士に問いかけた。
「おい、あの山のあの辺りなんだが、何か見えるか?」
それで分かったことは、その若い兵士にとっては、その辺りの風景はぼんやりとも見えず、特に違和感は感じないとのことだった。しかし山の稜線を言葉に表してもらうと、どうもその空間だけ詰まって見えているようだ。
オレはイマミアンドへの帰り道で見た風景のことをゲネオスとパマーダに話した。
「そう言えば前もそんなことがあったわよね? そう、あれは、パランクスの崖の下であなたが不思議な階段を見つけたときのことよ。なのであなたがそんな風に見えたというなら、そこには何かあるのかもしれない」
パマーダは意外にもオレの話に一番の関心を示してくれた。
その頃にはプエルトが人材を派遣してくれていたので、イマミアンドの運営は大分楽になりつつあった。
パマーダも外に出たかったのかもしれない。ゲネオスも同意し、オレたち三人は翌日から公務を外れ、いや、建前上は偵察行ということになっていたが、ともかく特段の期限を定めずにイマミアンドを離れることになった。
イマミアンドには冒険者が溢れかえっていたので、オレたちは力になりそうな魔法使いや護衛をパーティに加えることもできた。しかし、まだマスキロ以外の仲間と一緒に旅をすることが想像できなかったので、オレたちは三人パーティを選んだ。
イマミアンド城の馬を借りての旅だったので、北の山脈の麓へは2日ほどで到着した。地元のガイドを雇い、馬で行けるところまで行ってみることにした。
オレはガイドに以前変な風に見えた辺りを指して、どうやって登ればいいか尋ねた。ガイドは首を振って答えた。
「わたしらもあの辺りには行ったことがないんです。昔々からあの辺りには行ってはならんとの言い伝えでして。ええ、子どもの頃はそういったことを言われるとかえって行きたくなったりするもんでさ。わたしも行ってみようと思うことはあったんです。けどここが登り口かなという辺りに行くと、不思議とその先に進みたい気持ちがなくなって、気づいたら元来た道を戻っていたりするんです。今思い出しても帰り道の光景しか頭に浮かびません」
オレは前にそれと同じようなことを聞いたことがあるなと思ったが、それがどういうことだったのかは思い出せなかった。とりあえずは分かる範囲で連れて行ってくれと伝え、そのまま鞍上の旅を続けた。




