第196話 弟が遺したもの
「決行はいつがいい?」
とゲネオスが言った。
「話が漏れる可能性がある。明日しかないだろう」
マスキロの言葉にその部屋にいた人々皆に緊張が走った。
「明日か、心の準備が……」
ようやく口を開いたリエースが苦笑いを浮かべながらそう言った。
「このためにレジスタンスに入ったのだろう?」
とマスキロが言うと、リエースは、
「いや、アンタの言うとおりだよ。もう少し詳細を詰めたら俺はすぐに街中を走って仲間にこのことを伝えるよ。時間がない。急ごう」
しばらく明日の打ち合わせをした後、リエースやほかのレジスタンスのメンバーは夜の街に消えていった。
明日に備えてオレたちも宿に戻ろうとしたとき、メルーがオレたちに話しかけてきた。
「ゲネオス様、玉座の間へは私も連れて行ってください。決して足手まといにはなりません」
オレたちは互いに顔を見合わせたが、その真剣な眼差しを見ると否とも言いがたく、しばらく返答できなかった。
「ならば」
と急にマスキロが前に出て杖を振った。緑色のジグザグの光が杖の先からほとばしり、その閃光がメルーの頭部を直撃した。
メルーはアッと言って顔を押さえた。オレたちもびっくりしてマスキロを見つめた。
「心配するな。変化の杖を使っただけだ」
メルーが顔から手を取り払うと、そこには40歳前後の美しい女性の顔があった。
「この急襲が失敗に終われば、そなたが生き続けることはできない。ならばそのようにカムフラージュしていてももう意味はないだろう。そなたの弟はもう十分にそなたを守ったのだ」
「よくお気づきになられましたね」
メルーは自身の頬に手を当てながら話した。
「ダスカーは戦地に赴く前に家を訪ねてくれました。そのときに二人で相談して決めたのです。家族に軍属がいたからといって、ここイマミアンドではいつルールが変わるか分かりません」
「この魔法はとても強くて、ダスカー自身もその魔道の師が作った魔法の巻物を使わなければ術をかけることができませんでした。だからこそこんなにも長い期間魔法の効果が及んだのです。貴方さまは一体どのような高位の魔術師様なのでしょう?」
「ワシは一介の魔術師に過ぎん。ただ人よりも長い期間修行を続けてきただけだ、、、そう600年ほどだったかな」
メルーの顔にはきっぱりとした決意の表情が表れていた。
「私も参ります。役に立たないと思わないでください。私もここイマミアンドでたった一人生き延びてきたのです」
オレたちは彼女の決意を受け入れることにした。




