第191話 醜女
「あれは何だ?」
周囲を取り囲んでいる人間やモンスターの中に、少し変わった集団がいるのに気づいた。4,5人の女性が真っ黒のフード付きローブを着て、道の端に固まっている。その側には人は寄りつかず、人がすれ違うときもわざわざ道を避けて通っていた。
「醜女だよ~。ああしていると奴隷にされないんだぁ」
近くにいた酔っ払いにオレの独り言が聞こえたらしく、そいつはろれつの回らない声で教えてくれた。
「あいつらは自分で顔に火傷を作ったり傷だらけにしたりして、顔をぐちゃぐちゃにしてしまうんだよ。うぃ~~、可哀想だなぁ~~」
「なんでそんなことをするんだ?」
「そうするとなぜかモンスターに捕まらないんだ。どうせ時が来たら人生は終わるのにさ。バカなことをするねぇ、ひっく」
そう言えばパランクスの崖下のモンスターキャンプで聞いた話を思い出した。イマミアンドでは人間たちがモンスターの奴隷として生きることを受け入れていると。
人間たちがモンスターたちに連れて行かれると、周囲にいた野次馬たちも四散していった。しかし醜女の一人がその列をずっと見送っていた。
ここで一つオレのことを話しておきたい。
オレは大変に眼が良い。魔法使いの才能がないと分かってからは、初めの城の外でずっと木刀を振り回していた。新聞のタイトルよりも小さい字は読んだことがない。必然的に遠くの方ばかり見ていることになるので視力は大変に良かった。
モンスターに連れられた人間を見送っていた醜女を観察していると、ローブの端から覗いた手に指輪をしているのが見えた。かなり太い指輪で、彼女はそれを左手の人差し指に着けていた。指輪はおそらくゴールドでできており黄金色に鈍く光っている。指輪には刻印が彫られており、羽根の生えた動物のような意匠が刻まれていた。
オレはハッとして懐を探った。そこにはパランクスの戦いの後、ダーク・メイジの死体から回収した金の指輪があった。そこに刻まれた刻印は、その醜女が着けている指輪のそれとまったく同じものだった。
オレはゲネオスに今気づいたことを話した。
ゲネオスは言った。
「ついて行ってみよう。ボクのスカウト能力を使えば多分気づかれない。サルダドは少し離れて来て。尾行は得意じゃないだろう?」
ハッキリ言ってそのとおりだ。オレは基本的に色々な装備をすべて持ち歩いているので、モノ同士がふれあう音だけでも相当なものだ。
「だからサルダドはボクを尾行するようについてきて。そうすれば多分彼女には気づかれないだろう、、、多分ね」




