第188話 銀の腕
さらに話は遡る。オレたちが敵の艦隊を打ち破った翌日、アンモスが登城すると、エルフの戦士たちはあらためて威儀を正した。
アンモスもオレたちの姿を認めると、歩みを早めて近づいてきた。
「皆さん、こんなところで会えるなんて! 貴方たちは本当に私たちの救世主です!」
オレたちは数ヶ月ぶり、ないしは10年ぶりの再会を喜び合った。
アンモスの後ろから一人の男が現れた。
「ゲネオスさん、サルダドさん、パマーダさん、マスキロさん、お久しぶりです!」
すぐにゲネオスが気づいた。
「ムイースさん、どうしてあなたがここに!?」
顔こそ海風に焼かれてる色が変わっていたが、そこに立っていたのは高地の街で出会ったムイースだった。
ムイースは黙って右側の袖をまくし上げた。オレは思わずアッと声をあげた。そこには銀色に輝く腕があったからだ。その腕は滑らかに動き、ムイースは拳を持ち上げて手を握ったり開いたりした。
「驚かれましたか? 私は高地の街から何ヶ月もかけてノトスまで逃げてきたのですが、ここのエルフにゲネオスさんたちとデーモンの戦いの最中に腕をもがれた話をしたのです。するとエルフたちは『いいものがあるよ』と言って、この腕を付けてくれました。元々の腕と比べると若干華奢ですが、実際にはこの銀の腕は人の腕よりも重い物を持ち上がることができるし、指先も思いどおりに動かすことができました。だからドラゴンランスのような精巧な武器も鍛え上げることができたのです」
オレたちの話を遮って、ヴェテラン戦士のエルフがムイースに声をかけた。
「アルギュロス・ブラキオン! よくぞ戻られた!」
「なんだアルギュロス・ブラキオンというのはムイースさんのことだったんだ」
ゲネオスが言った。
「エルフの言葉で『銀の腕』という意味なんだそうです。そのままですね。私はこの身体の割には器用な方でしたから、エルフと打ち解けるのは早かったです。彼らは天性の職人でもあるのですね」
ムイースは話を続けた。
「プエルトに援軍を求めにいく際、私はアンモス卿に同行することになりました。やはり人間もいた方が交渉では有益でしょうし、この右腕が彼らの決断を促すことになるかもしれないという目論見もありました」
ここでほかのエルフの歓迎の挨拶を受けていたアンモスが戻ってきた。
「しかし結局プエルトの援助を取り付けることができたのもゲネオスさんたちのおかげだったのですよ。初めてプエルトの評議会を訪れたとき、彼らは援軍に難色を示しました。私たちはその日はやむなく宿泊所に戻りました」
2025年3月4日、ついに脱稿しました!
長かった……
書き始めたのは2018年。当初はこんなに時間がかかるとは思っていませんでしたが、仕事や子育てに追われるうちに、気がつけば2025年になっていました。
推敲をあまりしない、いい加減な作者ではありますが、できるだけ綺麗に整えて皆さんにお届けしたいと思います。
完結まであと少し、サルダドたちとの旅をどうぞお楽しみください!




