第187話 集団墓地
ここで少し話を前に戻そう。イマミアンドに向けて出発する前、モンスターたちの侵攻を防ぎ、オレたちがまだノトスに留まっていた頃の話だ。
その日は今回の防衛戦の戦死者を城内にある墓地に埋葬する儀式があった。
エルフたちがノトスに戻ってきて最初にしたことは、以前のノトス陥落以降放置されていた墓を掘り起こして墓地を修復し、そこにクレーネから移設された墓を合わせて、ちゃんとした墓地を整備することだった。
元はエルフたちだけの墓地であったが、今回の防衛戦での死者はすべてこの場所に埋葬されることになっていた。もちろんこれもすんなり決まったわけではなく、特に年長者のエルフの反対があったようだ。しかし今回の防衛戦の主力となったノトス移住以降に生まれたエルフたちは合同埋葬を強く主張した。
戦死者は約100名、その中でエルフが占める割合は約2割と、戦いの規模に対しては損害は少なかった。残る8割はほとんどが人間で、そこに幾人かのハーフエルフが混ざっていた。エルフにとっては初めて人間を埋葬する葬儀となった。
エルフたちは死者に静かな歌を捧げた。エルフ固有の言葉で構成された歌詞なのでその内容はまったく聞き取れなかったが、オレたちが耳にしたことがあるどのメロディーとも違って聞こえた。
その後パマーダも請われるままに祈りの言葉を捧げた。
二人の僧侶によって祈りが捧げられる儀式はオレたちがノトスを去ってからも続き、いつしかノトスにおいてはこの様式が当然のものとして定着したという。
葬儀が終わって城に戻ろうとすると、オレの髪の毛の中でアクリスがごそごそと動き始めた。そして一飛び外に飛び出すと、一つの墓の前で動かなくなった。
オレはすぐにそのコオロギを手に取って持ち上げたが、六本の肢は固く閉じられピクリとも動かなかった。
マスキロがオレの肩越しにその様子を覗き込んできた。
「寿命だな」
「寿命というと、コオロギのか!?」
「いや、変化の杖によって寿命自体は変わらない。アクリスの、ハーフエルフとしての寿命が過ぎたのだろう」
エレミアがオレたちの様子に気づいて戻ってきた。そして墓の前で固くなっている虫を見ると、オレたちに小声で話しかけた。
「これはアステイオスの墓です。そうですか……。それでしたらアクリスはこの墓に一緒に埋葬しましょう」
怪訝な顔をするオレたちを見て、エレミアは言葉を足した。
「アステイオスはアクリスの父です。かつてノトスがモンスターの攻撃を防ぎきれなかったときに命を落としました。アステイオスのことはよく覚えています。よく北の大陸のことを話してくれましたから……」
最後にエレミアはオレたちの方を見てこう言った。
「このことは内密に。アクリスのことをよく思っていないエルフは多いのです」




