第185話 総督コシネロ・続き
コシネロは話を続けた。
「やがて彼らはノトス郊外の墓地へお墓参りに行き、そこで何体かのスケルトンは故郷への帰還に満足して入滅しました。けど残りの者はまだ働きたいと言ってやって来たのです。前のオーナーは幽霊船と知っていながらプエルトの港を出入りさせていたということで非難にさらされていました。それで一刻も早く船を売りたがっていたんです」
コシネロはオレたち一人ずつの顔を見つめた。
「たとえそんなややこしい船であってもゲネオスさんたちが乗船した船ですし、これはチャンスと思いました。悪い風評が流れた後だったので、私はその船を安く買い取ることができました」
ゲネオスが不意に叫んだ。
「そうだ! あのときの報酬をまだ受け取っていなかった!」
コシネロは一瞬「しまった」という顔をしたが、すぐにニコリと笑って、「もちろんお支払いしますよ。それはもう。ええ、今でも払えますよ! 金貨を後ほどお持ちしましょう。けどあなた方はもうお金なんて必要ないのではありませんか?」
オレたちは全員、力強く首を振った。
コシネロはやれやれというジェスチャーを見せながら話を戻した。
「ところがこの船が掘り出し物だったのです。なんせスケルトンは疲れるということを知りません。そもそも睡眠が不要なんですから。そういったわけで通常の船の2倍の速さで航海ができることが分かったのです。私はこの船でも大儲けができました。さらに時代が変わりつつありました。モンスターたちの勢力も海に乗り出そうとしていたのです。モンスターは船旅は苦手のようで。その理由はご存じですよね?」
これは以前エルフが言っていたことだ。乗組員同士で食い合いになってしまうということだろう。
振り返って考えてみると、そういった動きがあったのはオレたちがパランクスを防衛した後のことだ。モンスターたちは敗戦の直後から南エルフ打倒に向けて動き始めたということだろう。
コシネロの話は続く。
「これは二重の意味でチャンスでして。一つには我々の船が護衛艦となって彼らの船旅を助ける。もう一つはまあ、そうですね。分かりやすく言うと、彼らが人間たちから奪った物を元の人間たちに返してやるという仕事です。まあ誰から奪ったか分からないときや、奪われた人間がもう死んでしまっているときは、返すこともできないのですが......」
「要は海賊ということだな?」
とオレは訊いた。
「私たちは私掠なんて呼んでたりしますがね。まあ海賊ですね……。けど裏では海賊をやっていると分かっていながらも、我々はモンスター側からも結構重宝されたのですよ。操船技術については彼らはプエルトの足下にも及びませんから。あ、もちろんモンスターたちのノトス攻撃に私たちは手を貸していませんよ」
それはちょっと怪しい気もしたが、この際小事には構わないことにした。
「しかしそれだけの船を集めるとなると、料理対決の賞金や最初の借金だけでは賄いきれなかっただろう?」
マスキロが口を挟んだ
「借金が1億ゴールドを超えた辺りから何も感じなくなりました。どうせ返せないので。いえ、むしろそこからは貿易と海賊の両輪で稼ぎまくりましたよ」
やはりコシネロは並の男ではなかった。
第10章 ノトス海戦 〜完〜




