第184話 総督コシネロ
翌朝は快晴。しかしオレは朝日を見た記憶があるだけでその後のことはよく覚えていない。
夜を徹した掃討戦の後、ノトスの街が防衛されたことがハッキリすると、オレはそのままベッドで寝かせてもらったからだ。
昼頃になってオレは起き出し、食堂に積まれたパンを一つ取ると、それを囓りながら外に出た。
その頃にはプエルト艦隊がノトスの港に入港し、その乗員が次々とノトス城に登城していた。
真っ先に城に入った男がいた。周囲にいたエルフの戦士たちは直ちに敬礼したが、その男がプエルトの総督であることを教えてもらうよりも早く、その男はオレたちに声をかけてきた。
「ゲネオスさん! サルダドさん! それにパマーダさんとマスキロさん! お久しぶりです。覚えてらっしゃいますか?」
太陽と海風に焼かれて真っ赤になった顔、髪や髭には白いものも混じっていたが、見間違えようもなかった。
「コシネロさん! 一体これはどういうことですか?」
ゲネオスが早速呼びかけると、オレたちはともに再会を喜び合った。
「その後紆余曲折がありましてね。今はプエルトの総督にまで祭り上げられました。あのときのレストランはまだありますよ。ボーイをしていた男の子を覚えていますか? 今は彼が総支配人で、プエルト市内に何店舗ものレストランを経営しています」
その夜はコシネロとじっくりと話をすることができた。
コシネロは貿易でも成功し、プエルトでも指折りの大富豪になったのだという。そこでレストランは当時ボーイをしていた少年に任せて、自身はビジネスに注力することにしたのだ。
やがてそれは貿易以外のビジネスへと発展していった。
「私掠船ってご存じですか?」
オレたちが首を振るとコシネロは話を続けた。
「初めはノトスから帰ってきた船が一隻売りに出されていたことから始まりました。『暁の女神官号』は覚えてらっしゃいますか?」
忘れるわけがない。オレたちがプエルトからノトスまで旅した船だ。その船は幽霊船ではあったが……
「その船がノトスから戻ったのですが、中の乗組員がアレだということがバレてしまいましてね。そりゃあそうです。プエルトに入港するや、骸骨がワイワイ言いながら桟橋を渡ってきたのですから。それを見て卒倒する者は数知れず、でしたよ」
「けど彼らもようやく状況が飲み込めたようで、時代は既に自分たちの孫の孫の、そのまた孫の、、、と、とんでもない年月が経っていることに気づいたのです。ほとんどのスケルトンは自分の子孫を見つけられなかったのではないでしょうか? いや見つかったとしてもそれはそれで困ったことになったでしょうね。『やあ、オレがお前たちのご先祖だよ』と言われても、子孫はどうやってもてなしたらいいものか......」




