第181話 ドラゴンランス
オレは何合も打ち合って、ようやくトロールを一体片付けた。
しかしまったくの無傷というわけにはいかず、パマーダのところに戻るか考えていた。
そのとき、不意にオレの周りが暗くなり、またすぐに明るくなった。そしてオレの後方で身の毛もよだつ「ギャーーー」という咆哮と、味方の「ウォーーー」という叫び声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはドラゴンがいて、その鎌首を振り回すごとに戦士たちが弾き飛ばされていった。
「くそ! 次から次へと」
オレはすぐにそちらへ向かった。
間違いない。あれはキューマが語っていたワイバーンだ。ワイバーンの背中には誰かが騎乗しているようだった。乗り手がいることでワイバーンは防御側の弱いところに狙いを定め、正確にこちらの戦力を削り取っていく。
また周囲が暗くなった。すぐに上を見上げると、さらに数頭のワイバーンがオレの上空を通過していった。
今度は城の中心部に直接向かっているようだ。
「エレミアが危ない!」
しかし目の前にいるワイバーンの攻撃は正確で、少しでも後ろを見せようものなら、致命的なダメージを受けることは目に見えていた。
「どうしたらいいんだ!」
さすがに焦ったがそこにはゲネオスはいない。
ゲネオスもオレと同じように単独で敵と対峙しなければ仲間を守れないほど緊迫した状況だったのだ。
日は少しずつ落ちて、間もなく闇が支配的になろうかという時だった。
ブーーーンッという耳慣れない音が聞こえたと思うと、ワイバーンが大絶叫をあげた。その胴体には銀色の槍のようなものが突き刺さっていた。
キューマが叫んだ。
「これはドラゴンランスです! アルギュロス・ブラキオンが帰ってきたんだ! ということはアンモス卿も! 援軍も!」
オレはキューマがドラゴンランスと呼んだ槍を、暴れ狂うワイバーンから引き抜いた。それは短い柄の先に円錐状の長い穂先が取り付けられた槍だった。その穂先にワイバーンの体液は少しも付着することなく、薄暗い光の中でも鈍く銀色に光っていた。
オレはドラゴンランスを握って暴れ狂うワイバーンに突撃した。
ドラゴンランスは敵の皮膚に触れた瞬間、まるでプリンにフォークを突き刺したかのように、ぬるりとワイバーンの体内にめり込んでいった。
ワイバーンは再び大絶叫をあげた。
さらにドラゴンランスが空気を切り裂いて飛来し、その度にノトス城のあちこちに取り付いていたワイバーンは大声で悲鳴をあげた。
オレは最初のワイバーンを何度も何度も突き刺した。やがてワイバーンの動きが止まり、その鎌首が城壁の上に垂れ下がると、オレはドラゴンランスを手に持ったまま、次の獲物を目指して城壁を駆けずり回った。




