第177話 決戦の前
その後1週間ほどは散発的な攻撃が続いた。敵の攻撃がノトスを傷つけることはなかったが、この町を守るマナ・ストーンの残高は着実に減っていった。
たまにマスキロが自身のマナとマナ・ストーンを使ってファイアーボールを撃ち込んでいたが、船そのものを沈没させるほどの力はなかった。
「やはりエルフたちのマナ・ストーンを借りんと大きな火の玉は撃てん!」
ゲネオスもライトニングを撃ち込んだが、これは敵の船のマストを完全に打ち砕いたものの、手許のマナ・ストーンは一瞬で砕け散った。
「ゲネオス、塔の中での修行の成果は出ておるが、おぬしは身体に貯めておけるマナの絶対量が圧倒的に足りん。エルフのマナ・ストーンを使わせてもらえるまでは魔法の使用は自重せよ。あと、使わせてもらえたとしても、あのどでかいのは撃ってはならんぞ。あれはエルフのマナ・ストーンさえ砕きかねない」
その日の夜、食事の場でエレミアが宣言した。
「これ以上アンモス殿の帰りを待つことはできません。3日後を決戦の日といたしましょう」
家臣団からはほんのわずかの声さえ聞こえなかった。すでに覚悟を決めていたという風情だ。
「かつて私の夫はプエルトに助けを呼びにいったまま帰りませんでした。今回こそはと思ったのですが……」
先代の王が身につけ、オレたちが海から持ち帰った略式冠は、今はエレミアの頭で静かに輝いている。エレミアにかける言葉はなかった。
オレたちはまたノトス城の武器庫に立ち入らせてもらい、その中でも最高品質のマジックアイテムを供給してもらった。
今回の戦いは序盤は飛び道具中心の戦いとなる。ゲネオスは魔法の弓を手にした。
白兵戦になることは想像したくなかったが、この戦力差であれば城壁を挟んだ肉弾戦の攻防となることは避けられない。オレは敵の矢の攻撃を防ぐための魔法の盾をもらった。この盾は直径1フィート程度の円形のバックラーだったが、所持者が構えて念ずると盾の周囲にも効果が及び、身体に当たりそうな矢はことごとく防いでしまうのだという。
「こんな良いマジック・アイテム、戦いが終わっても返さないかもしれないぜ」
とオレは軽口を叩いた。
それを聞くとエルフたちは笑い出した。
「構いませんよ。人間の命は有限なのでしょう? 死んだときに返してもらえばいいのです」
「人間は真に物を所有することはできないのですから」
俺は少しムッとしたが、エルフたちは間違ったことを言っていないような気がしたので何も言い返さなかった。
しかしマスキロは黙っていなかった。
「そんなことはないぞ。人間の伝承していく力を甘く見ない方がいい。確かに人の命は有限であっても、エルフの時代よりも長い期間、大切な力を伝えていく力があるのだ!」
エルフたちの顔から笑いが消え、皆押し黙ってしまった。




