第175話 崖下の戦い・続き
「勿論敵はワイバーンだけではありません。多くのモンスターは大河と崖に阻まれているようでしたが、私たちは崖を素早く上り下りし、崖下で攻撃を与えては砦に撤退するということを繰り返しました。私たちの姿が見えないうちに倒されるので、モンスターはおそらく誰に殺されたのかも分からなかったと思います。エルフの船も使いました。ゲネオス様にお譲りしたものは重くて私たちには使いこなせませんでしたが、隠密活動に使える船はまだ数隻残っていたのです。私たちは夜目も効きますから、夜に対岸の陣地に近づき度々敵を攻撃しました。
「そのときはエルフたちだけで戦ったのか?」
マスキロが尋ねた。キューマが答えた。
「そうです。それにクレーネから連れてきたハーフ・エルフや人間も参加しました。この戦いでは初めノトスの人々は中立の立場を取りたいようでした。彼らはエルフのことを疫病神のように思っていたようです。『お前たちがモンスターを呼び寄せたのだ』と。ノトスに暮らす人々は、街を行き来する商人やその親族・家族も多いので、自分たちの土地や街に対する思い入れがそれほど高くなかったのかもしれません。しかし戦いの最中、ワイバーンのうち1体が戦列を離れ、直接ノトスの街を攻撃したことで状況が変わりました」
再びエレミアが口を開いた。
「その戦いには私も参加しました。エルフは数が少なく、その多くは崖に築いた砦に出払っていましたから。ワイバーンは城ではなく町の方を攻撃していましたので、最低限の戦士を城に残して馬と駱駝で坂を駆け下りました。ワイバーンは丁度広場のところに降り立ち、周囲の建物を手当たり次第に破壊しているようでした。こう見えて私も並みの人間よりは強いのですよ。アンモスの援護を受けながらも魔法や弓でダメージを与えました。アンモスは城に残った唯一の竜槍でワイバーンを討ち取りました」
再びキューマが口を開いた。
「そのとき、エレミア様が人々の前でお話になったのです。現在の世界の状況を。遅かれ早かれモンスターたちがやってきて、強き者を上位に置き、弱き者を奴隷として使役する世界にしようとしていることを。しかし私たちエルフは決して諦めない。かつて勇者の助けを得て、その数十倍にも及ぶデーモンとその軍勢を打ち破ったときように、この街も絶対死守すると。ノトスの人々は弓と矢を手にしたままのエレミア様の話に聞き入り、ノトスの防衛に加わることを誓ったのです」




