第172話 南エルフの10年・続き
ここでマスキロが口を開いた。
「エレミア殿、貴女たちはこの10年どうしてこられたのだ? 数百年も砂漠の中で暮らしてきたエルフにとって、ノトスの支配権を回復することは簡単ではなかったはず。しかしこの城は思いのほか立派に見えるし、城下の支配も確立されているようだ」
マスキロは時の歪みの塔の10年のことにあまりショックを受けていないように見える。元々マスキロは少々のことには動じないが……
「城、、ですか? それはそうでしょう。サルダド様の助けがありましたから」
エレミアはオレの目をじっと見つめた。
エルフの女性に見つめられると、なんだか魔法に掛けられたような感覚に陥ることがある。
「サルダド様、あなたがお持ちの力ですよ。覚えておいでですか? パランクスを出立される前の最後の夜のことを」
エレミアは10年前の話として語っているが、オレにとってはほんの2,3ヶ月前の話だ。勿論そのことは覚えていた。夜中にオレ一人だけが呼び出され、パランクス城の中心部に連れていかれたのだ。
「あなたの能力によりパランクスの資材はとても軽くなり、子どもでも羽を持ち上げるように運ぶことができたのです。もうそのときには山城は放棄するつもりでした。デーモンの軍勢を殲滅することはできましたが、あの場所は既に安全な場所ではなかったからです。私たちは初めはクレーネを目指しました」
「残念ながらクレーネの資材を運ぶことはできませんでした。サルダド様の力があればそれも可能だったのですが、皆様はもう旅立たれた後。結局クレーネは諦めることにしました。できないことを悔やむより、できることをやろうと考えたからです」
この言葉にはオレは少し驚いた。それまでのエルフの考え方とはかなり違うなと思った。
「それにあの街は、もはやかなりの部分が砂に沈んでしまっております。重要なマジックアイテムは持ち出しましたし、住民はほぼすべてがこのノトスの街に移住しました。そうです。私たちはノトスを目指しました。数百年前に避難した道を今度は逆に辿っていったのです」
「ノトスに着いた後は、元々城があったところ、つまり此処ですね。この場所に石材を配置して城を組み直しました。ここは平地の城です。谷間を埋めていた石材を使ったので、資材は十分にありました。左右に塔を建て、その間を城壁で埋めました。無論海からの攻撃を意識してのことです」




