第145話 ハーピィの群れ
「ムイースさん、止血はできたから腕を拾ってきて! あとで何とかするから」
パマーダは大声で怒鳴った。パーティーにとって優先順位が高いのは、ほかのメンバーの傷を治すことであり、当然彼女としても後回しにしなければならないこともあった。
ムイースはまだショックを受けていたが、パマーダが行った治癒の奇跡を見て一縷の望みを抱いたのか、なんとか身体を動かすことができた。そして吹き飛ばされた腕のある場所を確認すると、小走りに駆け寄った。
と、その腕がサッと消えてしまった。
「キャッキャッキャッキャ」
耳障りな鳴き声が上方から聞こえてきた。見上げると巨大な鷲のような鳥が大きな羽を羽ばたかせていて、その鉤爪がムイースの右腕がガシッと掴んでいたのだ。
よく見るとそれは鳥ではない。頭と胸は人間の形をしていて、胸に乳房が垂れ下がっていることからかろうじてそれが女性であることが分かる。しかしそれ以外の部分は猛禽類のそれであり、広げると数メートルに及ぶ羽はバサッバサッと大きな音を立てていて、その鉤爪も人間くらいの大きさの動物であれば軽々と運んでしまいそうなほど巨大で力強いものだった。
そのようなモンスターが10体ばかり、塔の屋上の上を飛び回っている。
ムイースは自分の右腕を取り返そうと、残った左腕を振り回したが、そのモンスターはそれをあざ笑うかのようにムイースのすぐ近くまで下がってきては、ムイースの手が届きそうになると、また不快な鳴き声を上げながら上空に舞い上がってしまう。
モンスターの一体はオレのすぐ側にも飛んできた。
「う、臭い」
すれ違いざまに、糞尿を貯めておくタイプのトイレのような、強烈な臭気を感じた。
やがてモンスターたちはムイースの右腕を玩具にして、空中で渡し合いっこを始めた。ムイースの顔面は蒼白になり、オレたちは胸がムカつくほどの嫌悪感を感じた。
ゲネオスがデーモンの元に向かって走り始めた。
と、モンスターの一体がムイースの右腕をキャッチし損なった。それは塔から少し離れたところだったので、ムイースの右腕は海峡の崖の下に落ちていった。
オレはその様子を横目に見ながら、ゲネオスの後を追ってデーモンに向かった。
巨大な火の球が上空に向かって飛んでいくのが見えた。
ムイースの右腕を取り落としたモンスターは炎に包まれ、焦げた臭いをさせながらこれも海峡の崖に落ちていった。
いつの間にかパマーダがマスキロの後ろに立っていた。マスキロは傷が癒えて再び立ち上がると、火の球を連発し始めた。
「不潔なハーピィどもめ、これでも食らえ!」
「サルダド、最後になってゴメン! 今から治癒を飛ばすから」
パマーダの魔法が背中に当たるのを感じた。出血は止まり、何をかばうこともなく自由に身体を動かせるようになった。
「この鳥どもはワシに任せろ! 全て焼き鳥にしてやる」
マスキロの声は真剣そのものだったが、火の球を思う存分撃ちまくれることが嬉しくてたまらないようにも感じた。
既にマスキロの隣には、エルフから貰い受けたマナ・ストーンがゆっくりと回転しながら宙に浮かんでいる。




