第136話 高地の街
パランクスには地理に詳しいエルフもいた。
彼は北へ行けば行くほど気温が高くなることを教えてくれた。
これはオレたちが住む北の国とは逆だ。北の国では南へ行けば行くほど気温が高くなる。
ということは北と南の境目があり、その地点はとてつもなく暑いのだろうか?
湿地帯は不意に終わりを迎え、そこから先はまばらな草原が広がっていた。
さらに東へ東へと進むと草原の緑が濃くなり、樹木も増えてきた。
ここまで来ると動植物は豊かになり、オレたちは食べ物の確保に困らなくなってきた。量的にも質的にも。
地面はやがて緩やかな傾斜となった。道らしい道はなかったが、北の大陸を目指す意図から、オレたちは自然と北寄りの方向に進んでいたようである。
しかしエルフが教えてくれたように、北へ行くほど気温が上がるわけではなさそうだった。
「なんだか気持ちのいい気候だね」
とゲネオスが言った。
「標高が上がっているせいかもしれないな。あれを見てみろ」
マスキロが指し示すままに後ろを振り返った。丁度この辺りは木々の少ないエリアで、かなり遠くの方まで見渡せた。元来た場所はかなり下の方にあり、その先にはかなり霞んでいたが、クネクネと流れる水路が何本も走っているのが見えた。オレたちが踏破した湿地帯だ。
オレたちは気付かない間にかなりの標高まで来ていたようだ。
「エルフが越えられなかった湿地帯を越えて、ここから先は前人未踏の領域になるのか……」
オレは溜め息をついた。
「ああ、ここから先のことはワシにも全く分からん。ワシの知る限りこのような地形を記した書物はなかったはずだが……」
次に入った森では多数のモンスターの襲撃を受けて、ここが見かけほど安全な場所でないことを思い知らされた。
その後もオレたちは緩やかな傾斜を半月以上も登り続けた。
「サルダド、あれを見て」
ゲネオスの言葉に先を見上げると、視界の端から端まで地平線が広がっていて、その上が真っ青な空しかないところに来ていた。
「あれは……終点か?」
「分からない。あそこから先が下りになっているのかも」
「けど峠はもっと地形がボコボコしているものじゃないか? 登りと下りの境目があんなにも真っ平らになっていることなんてあるんだろうか?」
「あそこに何かあるわ」
パマーダが指差す方向を見ると、塔のような建造物が見えた。ハッキリとは分からないが円柱形ではなく四角柱形の塔のようだった。
そしてその建造物から少し離れたところに、空へ向かう傾斜に這いつくばるように街が広がっているのが見えた。




