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第134話 瘴気の沼

デルタ地帯の旅は2週間を終えようとしていた。

「広いな」

オレの言葉に、皆言葉を発さずに頷いた。

ノトスから東へ向かうルートは、厳密に言うと誰かが踏破したという記録がない。

食料が半分を下回れば、元来た道を戻ることも考えなければならない。

それでオレたちは満ち欠けのボートに積まれた食料にはできる限り手を付けず、デルタ地帯にいる生き物を晩餐のメインディッシュにするよう努めていた。

そのおかげでボートの中の食料は3分の1も減っていなかった。


デルタ地帯で食料にしたのは川魚や水鳥が主なものだが、小型の哺乳類も時折捕らえることができた。

ミョルニルがある限り狩猟は簡単だ。むしろお腹を壊さないようによく火を通すことを心がけた。

デルタ地帯で貴重なのは、食料よりも薪となる木材である。薪を山岳地帯で十分に採集しなかったことが悔やまれる。

以前は魔法でグリル料理を作ってくれたマスキロだが、このところは全く調理に絡んでくれなくなった。本人曰く「マナを貯めている」らしい。パランクスの防衛戦でマナを使いすぎたのだと。オレは魔法のことはよく分からないので、差し当たりそういうものかと得心(とくしん)していた。


「なんだかおかしくない?」

先行していたゲネオスが、こちらに振り返って言った。

このところずっと膝下くらいの沼が続いている。水深が低すぎて満ち欠けのボートは使えない。迂回するルートも探したが、この沼地を横切る以外なさそうだったのだ。

初めはところどころ低木や草が生えていたが、そうしたものがドンドンまばらになっていき、ついには真っ黒な泥しか見えなくなってしまった。

おかしいと思ったのはそれだけではなかった。初め沼地には沼地なりに生物がいたのだが、先に進むと生き物の気配すら消えてしまっていた。

「マスキロ、沼地というものはこういうものなのか?」

「分からん! ワシは地質学者ではないぞ。ただおかしいということは分かる。この辺りではなんだか、、、生き物が息を潜めているように思える」


静寂は突然終わりも迎えた。

「グオォォォォォォ」

とんでもなく巨大なモンスターが沼地を這うように疾走してきて、オレたちに体当たりしてきた。

特に運の悪い二人が弾き飛ばされて空中に舞った。今回はオレとパマーダだ。

「ミョルニル!」

空中に放り出された後、今度は地面に打ち付けられそうになっていたパマーダを、ミョルニルはすんでのところで回収した。

その代わりオレは地面に激突したが、下が沼地だったこともあって軽傷で済んだ。

そもそもどんなに怪我をしても、癒やし手(パマーダ)が無事なら問題ない。


オレは立ち上がり、不意の攻撃を仕掛けてきたモンスターを確認した。

身体はこれまでに見たことがあるどんな動物よりも大きい。そして全身が青みがかった鱗に覆われている。

それは竜だった。

首の先にはギザギザの歯を覗かせた頭があって、眼はじっとオレたちを(にら)みつけていた。

翼はあるが、見た目にも(しお)れていて、身体にぴたっとくっついていた。そのためその竜は四足獣のような動き方をした。

「あれは、、、ブルードラゴンか!?」

マスキロが小さく叫んだ。

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