第131話 サルダドの特殊能力
「デルタ地帯もこのボートがあれば、スムーズとは言わないまでもそれほど困難なく進むことができるでしょう。これはある呪文を唱えれば普通の大きさのボートになり、別の呪文を唱えると先ほどご覧になったほどの小さなボートになります。呪文は後ほどお教えします」
ゲネオスが尋ねた。
「今、南エルフの秘宝とおっしゃいましたが、そのような貴重なものを頂いて良いのでしょうか?」
エレミアが答えた。
「良いのです。今の私たちには使えませんから」
「???」
「と言いますのも、これは大変重いのです。小さく縮めたときでも重さ自体は実際のボートと同じです。つまりコンパクトになるのは大きさだけで、舟を運ぶ人足が必要なのは普通のボートと変わりません」
その説明を聞いてもオレたちには何のことか分からなかった。いや、このボートの機能自体は分かる。問題はなぜそんなものを作ってしまったのかということだ。
オレたちの疑問を察してか、エレミアはさらに説明を加えた。
「前の王はこれを使えました。陛下には特殊能力があったからです。それはサルダド殿、貴方もお持ちの能力です」
エレミアはオレの方に視線を向けた。
「サルダド殿、前へお進みください。貴方なら持てるはずです」
そう言うとエレミアは再び呪文を唱え、ボートを小さくした。
オレは前に進み、恐る恐るボートに手を添えた。ピクリとも動かない。
「うまくいかないようでしたら、それが玩具のボートであると心で言い聞かせて、軽い気持ちで持ち上げようとしてみてください」
オレは未だ半信半疑だったが、一旦心の中を真っ白にしてから、小さくなったボートを片手で掴んだ。そしてそのままスッと上に持ち上げた。全く重さを感じなかった。
「ボクも触ってみていいですか?」
ゲネオスが断りを入れてから、オレが再び床の上に置いたボートを持ち上げようと試みた。舳先と船尾の部分に手を添えて踏ん張ったが、ボートは全く持ち上がらず、床との間には僅かの隙間もできなかった。
エレミアはオレがボートを持ち上げたのを見届けると、安心した様子でまた話し始めた。
「アンモスを助太刀された話を聞いて思い出したのです。貴方は私の夫と同じ能力、すなわちモノの重さを自由に変える能力をお持ちです」
エレミアの言葉にオレはハッとした。パーティの仲間も同様に驚いた顔をしている。
「オレには思い当たる節がないんだが……」
「いや、サルダド、やっぱりおかしいよ。サルダドは今まで手に入れた剣を全て持ち歩いているだろ? そんなこと普通の戦士にはできないよ」
確かにオレは手に入れた全ての武器を持ち歩いている。ミョルニルとシミターは腰にぶら下げ、グラディウスは盾の後ろにくくりつけている。オレは戦士ならそんなことは当たり前だと思っていたが、確かにこれまですれ違った戦士でそんなにも沢山の武器を持ち歩いている奴はいなかった。
「そうです。そしてそれとは逆に、アンモスの盾を重くしてモンスターを押し潰してしまった。あれはアンモスの最初の戦果でしたが、その背後には貴方の特殊能力があったのです」
アンモスはこの場にはいなかったが、この話を聞けばショックを受けたかもしれない。
「これが貴方個人の能力によるものか、ミョルニルの力によるものか、もしくはそれらが合わさったものなのか、それは分かりません。ミョルニルの能力は私たちも知らないのです。ただ、ミョルニルを作った人のことは分かります。私はお目にかかったことはないのですが、直接その方を知る者がこの砦の中にはいます。その者によると、ミョルニルの作り手も貴方と同じ能力を持っていたそうです」
「その方は誰なんですか?」
オレは尋ねた。エレミアが答えた。
「北のエルフの王です。北エルフの王は、全エルフの王でもあります」




