第127話 目標設定
宝箱が下げられると、あらためてエレミアとオレたちは向き合った。
「皆さまは次はどちらにいらっしゃいますか?」
まずエレミアが切り出した。
オレたちは顔を見合わせた。たしかにここまでは「エルフに会いたい」というゲネオスの強い意思によって来たようなものだ。しかしエレミアたちに会って、しかもエルフをモンスターの包囲網から解放した今となっては、次の行き先を決めるべきときだ。
「ノトスに戻って東風を待ち、再びプエルトを目指すという考えがある」
オレは戦いの翌日に城壁の上で感じた風を思い出しながらそう言った。
「そしてプエルトから北の大陸行きの船を探す。どうもモンスターの元締めは北の大陸のどこかにいるようだ」
ここまで言ってオレは気付いた。なぜオレたちはモンスターと戦わねばならないのか? そしてマスキロが言うところの「魔王」を追わねばならないのか?
「しかしプエルトは山に囲まれており、そこから光の扉を通って行けるのはツギノ村だけだ」
オレの葛藤をよそに、マスキロが言葉を継いだ。
「ワシはあそこには戻りたくないな。あの辺りの地域は周囲から隔絶されている。中であちこち彷徨い歩いたのだが、なぜか外のエリアに出ることができなかったのだ」
この言葉にゲネオスとパマーダも頷いた。
「ええ、正直困っていたわ。あの辺りの地域はぐるりと山に囲まれていて、そこから外に出る道はいくつかあるのに、なぜかどの道も一人だとうまくいかない理由があるの。入ったときはそんなことはなかったのにね。それで城下町の酒場に立ち寄って、仲間を探していたの」
「私たちと共に戦っていただくことはできませんか?」
ここでエレミアは、オレたちには意外すぎる言葉を発した。
「私たちと共にとは、つまり、ノトスの奪回に助勢頂けないかということです」
エレミアはオレたちの驚いた顔を見て、さらに説明を加えた。
「誤解なきよう。先ほど皆さまにお渡ししたものは、先の勝利をもたらして頂いたお礼です。ノトス奪回はエルフの戦いであることは分かっております。ただもしノトスの回復に成功しても、それを防衛するためには、エルフの力だけでは足りぬことも事実。ノトスやクレーネの人間たちの協力も仰がねばなりません」
ここでエレミアはオレたち一人一人の顔を見つめた。
「皆さまのお力添えを頂けば、それは得がたい助けとなりましょう。モンスターに対してもそうですが、人間の協力を仰ぐ際にもです」
しばらくの間、オレたちは黙ってしまった。それぞれがエレミアの言葉の意味や、それによってどういうことが起こるのか考えているようだった。
「なんだかオレたちには向いていない気がするな」
最初に空気の読めない回答をしたのはオレだった。
「ノトスの奪回と言っても、別にノトスとエルフが敵対関係にあるわけではない。エルフが元の居場所に戻るだけだ。やがてモンスターが再びノトスに向けて差し向けられるかもしれないが、それがいつになるかは分からない。ひょっとしたら来ないかもしれない」
ただ、ここパランクスでここまでモンスターをぶちのめした以上、モンスターが報復にやってこないということは考えづらいが。
「いずれにせよ、いつ来るか分からないモンスターを何年も待つというのは、人間には向かないよ。少なくともオレにはね。オレたち人間は短命なんだ」
エレミアは『短命』という言葉を聞いて、何も言い返せないようだった。
「エレミア様、ノトスから先、東へ進むことはできないんでしょうか?」
ゲネオスが尋ねた。




