第122話 死屍累々
完全に夜が明けると、皆が城壁の上に集まってきた。
砦に残された爪痕を目にして絶句する者、遂に戦友の死を受け入れざるを得なくなった者、皆表情は暗い。
しかし勝利したのはオレたちだ。生き残った者たちの心は少なからず勝利の余韻に酔っていた。そのため誰も城壁の上で立ちすくむことはなく、すぐに城壁に残されたモンスターの死体を崖の下に放り投げ、味方の遺体は丁寧に回収し、館の奥で可能な限りの埋葬の準備をした。
「マスキロは?」
しばらくしてからオレが尋ねると、ゲネオスは困った顔をしながら第一城壁の櫓の方向を指差した。
そこにはマナ・ストーンだったものが粉々になって地面にばらまかれ、その側でマスキロが膝を突いて動くこともできずにいた。
俺は第一防壁まで移動し、マスキロに声を掛けた。
「マスキロ、それは?」
「おお、サルダドか。これはワシが持つマナ・ストーンで最大、、、いや、二番目に大きいものだったのだ」
粉々に砕けたマナ・ストーンの中には、握り拳よりも大きい破片が残っていた。おそらくマスキロがゲネオスに与えたマナ・ストーンの中心部分であろう。当然マナ・ストーンの輝きは失われている。小さな破片を除いてもこの大きさなのだから、元のマナ・ストーンは相当な大きさだったことが想像できる。
「ゲネオスは一体何者なのだ? ろくに魔法も使えないのに、いざ使うとなると、このサイズのマナ・ストーンを一回で駄目にしてしまうような強力な魔法を繰り出す……」
マスキロが呻くように言った。
オレは振り返って、第三防壁の辺りでエルフたちの手伝いをしているゲネオスを眺めた。
ゲネオスが魔法を使えない、ないし忘れたと言ったとき、オレはそんなものかとあまり深く考えていなかった。しかしこれを見ると、勇者としてのゲネオスの評価を見直さなければならない。
一体ゲネオスは何者なんだ!?
城壁の上があらかた片付くと、オレたち四人パーティーにエルフの精鋭(その中にはアンモスもいた)を加えたチームは、最初にパランクスの砦に来たときに通った目に見えない階段を使って崖の下に降りた。敵の損害を確認するためである。
階段を下り、モンスター・キャンプがあった辺りにやって来ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。
あちらこちらに黒焦げのモンスターの死体が転がっている。さらに建物の類いも一通り燃え尽きていた。モンスター・キャンプ周辺の森はそのほとんどが焼き尽くされていて、真っ黒になった燃え残りの幹が立ち並んでいた。その先の森はさすがに健在であったが、少なくともモンスターの気配はしなかった。
(3000体のモンスターが全滅……)
10倍の戦力のモンスターを倒した事実を目の当たりにし、俺はあらためて身体が震えるのを感じた。
オレたちは記憶を頼って首領のデーモンがいた辺りを調べに行った。
デーモンの玉座らしきものが置かれた建物は全て崩れ去っていたが、おそらく当時デーモンは建物の中にはいなかっただろうと思われたので、その辺りを中心に首領が指示を取っていそうな場所をしらみつぶしに調べていった。
するとモンスターを城壁まで打ち上げた投石機の側に、ひときわ大きいモンスターの黒焦げ死体を見つけた。
オレたちは剣や足を使って死体をひっくり返し、数日前にみたデーモンに違いないことを確かめた。
「我らはデーモンを倒したのか……。ここ数百年で最大の勲ではあるまいか」
エルフの中で最も長命と思われる者が呟いた。




