第120話 ライトニング・ストライク
マスキロは館の見張り台から、ゲネオスの様子を見ていた。
ゲネオスが櫓の外に現れると、稲妻が光り、ゴロゴロゴロと雷の音がした。
ゲネオスは剣を帯びておらず、呪文の詠唱を行っているようだった。
マスキロはクレーネの宿屋であった出来事を思い出した。そして頭の中で何かが閃くのを感じた。
「そうか、そうか、そういうことか!」
マスキロはローブの隠しから何やらアイテムを取り出した。
取り出したのは巨大なマナ・ストーンだった。
そして一瞬逡巡したものの、すぐに大声で叫んだ。
「ゲネオス! これを使え! ワシのとっておきだ!」
その声はゲネオスには届かなかったかもしれないが、マスキロの手から投げ放たれたマナ・ストーンは自ら空中を飛行し、ゲネオスのところまで到来すると、空中に浮かんだままとどまった。
「な、なんだ、あのマナ・ストーンは!」
「あんなに大きいものは今まで見たことがない」
周囲のエルフから驚きの声が漏れた。
マナ・ストーンは明るく輝き、それとともにゲネオスの身体を強い光が包み込んだ。
ゲネオスが呪文の詠唱を終え、何か言葉を発するのが分かった。
ビカッ! ドーーーーーン!
雷が城壁の上で密集していたモンスターの上に落ちた。
「うわっ!」
近くにいたエルフの戦士たちが、慌てて後ろに飛び退いた。
ドガーーーン! ドガーーーン! ドガーーーン!
その後も連続してモンスターの上に雷が落ちた。とても自然現象とは考えられない。
「急げ! 第三防壁は放棄しろ。どこでもいいから建物の中に入れ! 櫓でも館でも塔でも構わん! 急げ急げ急げ! 巻き添えを食らうぞ!」
マスキロが大声で叫んだ。
味方のほとんどはもう第三防壁まで下がっていた。兵士たちは皆持ち場を捨て、館の中になだれ込んだ。
僅かに残っていた第二防壁の兵士たちも、櫓の中に籠もって扉を固く閉ざした。
ビカッ! ドガーーーン! ビカッ! ドガーーーン! ビカッ! ドガーーーン!
稲妻の光と音は同時に発生し、その度にモンスターの断末魔が聞こえた。
城壁の一部も落雷によって砕かれ、石の破片が周囲に飛び散った。
稲妻は城塞の中だけにとどまらず、崖の下のモンスター・キャンプにも落ちていった。
いや、モンスター・キャンプだけでなく、周辺の開けた土地やその先の森林まで、隙間なく稲光が落ちていった。
もはや稲妻は線ではなく、カーテンのような面として皆の目に映った。
「マスキロ殿、あれは何です!?」
エレミアはマスキロのそばに来て、稲妻の様子を眺めていた。
「雷電打撃群だ。ワシもこの目で見るのは初めてだ……」
マスキロはエレミアの方を振り返らず、外の様子を見つめたまま言った。
「雷電は勇者にだけ許された魔法。魔法使いでも使えないことはないが、身体への負担が大きすぎる。ましてや雷電を打撃群で使うなど……。あやつは一体何者なのだ?」




