第12話 白の貴婦人
オレ達は捕らえたオークを先頭に立たせて、森の中を進んだ。
光の扉は森が山に差し掛かる辺りにあると、村長が教えてくれた。
奥へ進むにつれ森は深くなった。
マスキロは灯りの呪文を唱え、灯火を杖の上に点した。
さらにしばらく進むと、やや木々がまばらになった場所に出た。
オレは不意に風圧を感じた。
気付くとオークの身体の腰回りが、繭のような白い繊維にくるまれていた。
オークの前には、ジャイアント・スパイダーが佇んでいた。
その名のとおり、巨大な蜘蛛だ。8本の脚はそれぞれ数メートル、眼の位置は我々の頭上にあった。
このジャイアント・スパイダーは全身を真っ白な体毛で覆われていた。
脚の辺りはあまり毛が生えていないので黒く見えたが、胴体はほとんど黒い部分が見えず、顔の周りは8つの眼を除いて白い毛で埋め尽くされている。
体重は数トンはあるのではないだろうか。完全にミョルニルの対象外だ。重すぎてオレの身体がもたない。
自分より遥かに大きい虫の姿を見て、オレはアッと声をあげそうになったが、モンスターを刺激してはならないと必死でこらえた。
しかし、マスキロは大きな声でジャイアント・スパイダーに呼びかけた。
「レディー、お見舞いに参りました。どうぞお召し上がりください」
「ほほぅ、そなたは口の利き方が分かっておるようじゃな」
レディー? そうか、これが貴婦人の正体か!
縄にくくられたオークを手土産と認識したジャイアント・スパイダーは、そのままオークを蜘蛛の糸でグルグル巻きにしてしまった。
そして糸で巻いた塊の中に牙を差し入れると、チュルチュルとオークを吸い取り始めた。
オークは何事か叫んでいたが、分厚く巻かれた蜘蛛の糸に遮られ、ただくぐもった声が聞こえるばかりだった。
その声もすぐに聞こえなくなり、蜘蛛の食事の音だけが辺りに響いた。
しばらくすると食事の音が止んだ。しおれた蜘蛛の糸の塊と、オークの着けていた服と、その下にあったオークの皮膚と骨とが地面に崩れ落ちた。
ジャイアント・スパイダーがこちらに振り返った。
「此方へは何用じゃ?」
「光の扉にお通し願いたい」
マスキロが答えた。
「良いぞ。しかし次はもう少し旨いものを持って参れ。この味は酷い」




