第118話 討ち死に
パマーダはすぐにオレを治癒してくれた。
身体がポカポカと温かくなり、折れていた骨がつながっていくのが感じられた。
疲労も抜けてなくなり、しっかり寝た後に目覚めた早朝のように身体が滑らかに動いた。
「パマーダ、ありがとう」
「サルダドがここまで負傷するのは珍しいわね」
「あぁ、けど今回はまたお願いするかもな」
オーガーを討ち果たしたものの、戦況はやはり不利だ。
オレはすぐに前線に復帰したが、モンスターの圧力が以前よりも増している。
敵はとにかく数が多いのだ。こちらは疲労や怪我で徐々に戦闘力が削られていっているが、モンスターは倒しても倒しても新しいやつが登ってきて、全く死を恐れずオレたちに向かってくる。
夕刻から始まった戦いは、まだまだ終わりが見えなかった。
やがて日が落ち、周囲が闇に包まれた。
しかしそれはほんの一瞬のことで、間もなく城塞のあちこちで灯りの魔法が唱えられた。
これによって戦いに十分な光は確保されたが、あちらこちらで影になっている箇所があり、そうしたところからモンスターの攻撃を受ける可能性もあるため、明るい日中よりはるかに神経を使わなければならなかった。
「ゲネオス、オレたちは櫓を背にしよう。おそらく第一防壁はもうもたない」
西の櫓は既に出入口に強力な施錠の魔法をかけていて、上階の銃眼から矢が散発的に発射されるにすぎなかった。
もう間もなく中の兵士は滑車を使って脱出し、櫓自体は敵に使われないようにするため爆破してしまうことになっていた。
あくまでもプランどおりの行動ではあるが、櫓を破壊してしまえば味方の士気は下がり、敵を勢いづかせることになるだろう。
実際には味方の犠牲は必ずしも多くないが、おそらく10名は命を落とし、50名近くがもう前線には立てないレベルの傷を負っていた。
「戦えるのはあと250人……」
オレたちの計算では50名で500体のモンスターを倒さなければならないことになっている。
果たしてそれだけの数をモンスターを倒しただろうか?
そしてその計算も、あくまで当初の目算が正しかった場合のみ成立する。
そもそもモンスターの数が、オレたちの見積りより多いかもしれないのだ。
第一防壁に溢れるモンスターの姿を見ながら、オレは絶望的な気持ちになった。
その時だった。
「レイモン殿、討ち死に!」
「レイモン殿、討ち死に!」
古参のエルフの死を告げる声が、背後で櫓を守るエルフたちからもたらされた。




