第117話 食人鬼討伐
オレは油断していたのかもしれない。
オーガーが強力なモンスターだということは分かっていたはずだ。
しかしオーガーの攻撃に対し想像力が全く足りていなかった。
オーガーは脚を使ったのだ。回し蹴りだ。
もちろん蹴られた瞬間にそのことが分かったわけではない。
オレは真横に吹き飛ばされて、今は城壁の外の空中だ。
オーガーは腕は動かしていなかったから、それはつまり蹴飛ばされたのだろう。
城塞の方を見ると、暮れかかった空に真っ赤な一つ星がキラキラと輝いているのが見えた。
「綺麗だ……」
しかし星の美しさに感嘆していたら崖の下まで落っこちて即死である。
「ミョルニル!」
オレは手に持っていたミョルニルを、城壁の上に向けて放り投げた。
投げてみて気付いた。オーガーに蹴られたところ、あばら骨が何本か折れている。
しかしこのまま落下してしまったら痛がることもできなくなる。
オレは骨折した箇所が悪化することを恐れながらも、ミョルニルに対して指示を発令した。
「ミョルニル! オレをくっつけろ!」
下に向かって落ちていたオレは、次の瞬間強力な力で上に向かって引き上げられ始めた。
急激なベクトルの変化に、折れたあばら骨が軋んだ。
オレは思わず呻き声を上げたが、その代わり城壁にはすぐに戻ることができた。
胸壁から下を覗き込んで凄い顔をしていたゲネオスが、もっと凄い顔になった。
「サルダドが飛んだ!」
ラッキーなことに、オレを蹴り飛ばしたオーガーのまさにその頭上でミョルニルを掴むことができた。
オレはこのタイミングを逃さず、ミョルニルを振り下ろした。
ミョルニルはオーガーの頭部にクリーンヒットし、オーガーがよろめいた。
オレはそのままズシンと地面の上に落ちた。
「いてぇーーーーー」
アンモスの動きは早かった。
「これをくらえ!」
アンモスの剣がオーガの太腿を貫いた。
オーガーは聞くに耐えないほどの濁った声で絶叫し、膝を折った。
「今だ! みんなも突け! 突け!」
ゲネオスは声を上げながら、オーガーの腹のど真ん中を狙って剣を遮二無二突き刺した。
周囲にいたエルフたちも、オーガーのあらゆる部位に剣を立てた。
オーガーは動かなくなった。
オーガーの死亡を確認するや否や、ゲネオスは動けなくなっているオレのところに大慌てでやって来た。
「サルダド! 大丈夫か! すぐにパマーダのところへ運ぶから!」
ゲネオスとアンモス、それに二人のエルフの戦士が、オレを東の櫓まで運んでくれた。




