第114話 アンモスの盾
## 第114話 アンモスの盾
第一防壁に打ち上げられたオークはよりにもよってアンモスの目の前で立ち上がった。
そしてすぐさま一番近くにいたアンモスに襲いかかった。
これまでに見たことがあるオークとは全く違う。身体のサイズが一回り大きく、背の高さは人間やエルフと変わらない。しかしずんぐりとした体躯はオークそのもので、体重はオレたちをより2〜3割重いのではないかと思われた。
武器や防具といった装備も人間の上級戦士と変わらない。デーモン配下の正規兵にはここまで立派な装備が支給されるのか。
アンモスは剣を抜く暇さえなかったようだ。
「くそ、なんであいつは剣を抜いていなかったんだ」
オレは心の中で悪態をつきながら、第一防壁の端から端へ猛ダッシュをかけた。
アンモスは盾をかざしてオークの攻撃を防いでいた。剣を抜こうともがいているが、盾の上に撃ちつけられるオークの一撃は重く、剣を鞘から引き出すことができない。
「アンモス、剣はいい! 盾を使って相手を押すんだ。押して押して押しまくれ!」
オレは走りながら必死で叫んだ。
その声が届いたのか、アンモスは剣の柄から手を離し、盾の下に両腕を差し込んで全力でオークを押し返した。アンモスにとってラッキーだったのは、歩廊に慣れないオークが石畳に躓き、真後ろに転倒したことだ。
アンモスはその後も盾に体重を預け、オークを押しつぶすような姿勢になった。
勿論オークはすぐに起きあがろうとした。
アンモスも必死で押さえつけようとするが、体格で勝るオークの抵抗はとても支えきれず、間もなくオークは盾の下から這い出してきそうだ。
(盾が丸太のように重ければ!)
オレは心の中で叫んだ。
すると盾の下でがむしゃらに動いていたオークの動きが止まった。
さらにオークは「げぷっ」という声を出した後、ピクリとも動かなくなった。
その間もバリアーは絶え間なく光り続け、モンスターが次々に打ち上げられてきた。
オレがアンモスの元に行き着いたときには、オークは既に絶命していた。
しかし今はオークがなぜ死んだのかを考えている暇はない。
「アンモス、急げ! 次のが来るぞ!」
「それが、盾が重くて持ち上がらないんだ!」
アンモスが初戦を生き延びた興奮のためうわずった声で叫んだ。
「何を言ってるんだ!」
オレはアンモスの盾に手を掛け、やすやすと持ち上げた。
「ほら!」
「いや……」
アンモスは言葉を詰まらせた。
「どんどん上がってくるぞ! 剣を抜け! 行くぞ!」
オレは襲い掛かってきた別のオークの頭をミョルニルで叩き潰した。
アンモスも剣を抜き、既に始まった乱戦の中に身を躍らせた。




