第112話 決戦前夜
「皆さんは北の国から来られたのですよね?」
アンモスはオレたちに尋ねた。
オレたちは顔を見合わせた。
「すまない、実は『北の国』というのがどういう意味なのかよく分からないんだ」
とオレは答えた。
エレミアの会話の中にも『北の国』という言葉があったことは覚えているが、なんとなくその場では聞き流していた。
「おそらくボクたちの出身地があるのは北の国なんだと思う。けどボクたちはこちらには旅の扉を使って来たので、実は自分たちがどこにいるのか分かっていないんだ」
とゲネオスが補足した。
「おぉ、旅の扉。話には聞いたことがありますが、現存するものがあったのですね」
アンモスが感嘆の声を上げた。
「私たちも全てを知るわけではありませんが、少しご説明しましょう。ノトスより北は大きな海が広がっていて、その先に北の大陸があります。ノトスから西へ行くとプエルトがありますが、東の方は人跡未踏のため、まだよく分かっていません。北の大陸にかなり近付くエリアがあると聞いていますが、その先で北の大陸と南の大陸が繫がっているのか、それとも両者は完全に分離しているのか、それを確かめた者はおりません。そもそも南の大地は未探検の場所が多すぎて、そもそも大陸なのかどうかさえ分かっていないのです」
アンモスが周囲の地理を教えてくれた。
「私たちは北の大陸を追われ、大洋を渡って今のノトスがあるところに辿り着いたと聞いています。ノトスというのは『南』という意味なんですよ。この辺りでは一番北に当たるのですが、ノトスの地を発見したときは一番南だったわけです」
「おー、そうなのか!」
ノトスに滞在した限りでは、そこに住む人々は誰もノトスの名前の由来に関心を持っていなかった。
「思うに旅の扉があったという場所は、北の大陸のいずれかにあるのではないかと思います。旅の扉は私たちにとっては忘れられた魔術となっていますから。もう旅の扉を一から設置できるほどの術者は我々の中にはおりません」
オレたちはアンモスに一旦別れを告げ、館に戻った。
館の敷地の中には、居住用の建屋がいくつも築かれていて、この城のエルフたちのほとんどはそこで暮らしている。
オレたちは男女それぞれ一室をあてがってもらい、翌日の戦いに備えて英気を養うことにした。
就寝の時間までにアンモスは再びオレたちの部屋を訪れた。
その夜はアンモスに北の国のことを語って聞かせた。アンモスはオレたちが語る全てのことを興味深そうに聞いていた。
夜も更け、アンモスはオレたちの部屋を立ち去ろうとしていた。
「この戦いに勝利したら、ノトスに行き、なんとかして船を得て、北の国を目指してみようと考えています」
帰り際にアンモスが言った。オレはなぜか嫌な予感がした。
「はは、そんなことを言っていると、初陣でアッサリ死んでしまうぞ。初めは生き残ることだけ考えろ。もし余裕ができたら、その次は弱い敵だけを狙うんだ」
とオレはアドバイスした。




