第108話 サウス・キャッスルの戦い
しかし実際に待っていたのはほんの1〜2分くらいのものだろう。
エレミアは口を開くと、ハッキリとした口調で指示を出し始めた。
「レイモン殿、城壁の防御に必要な最低限の兵士を残し、全ての人々を館に集めてください。入りきらぬ者には聞き耳の呪文を使って私の声を伝えて」
「は! 承知しました」
レイモンたちが立ち去ると、エレミアはオレたちに話しかけた。
「あなた方はマスキロ殿とどのように知り合われたのですか?」
オレは返答に困った。酒場でたまたま出会ったというのが真実なのだが、もう少し高尚な理由があった方がこの場には相応しい気がした。
しかしこれにはゲネオスがあっさり答えてくれた。
「ボクたちは共に戦う仲間を探していたんです」
エレミアは興味深そうにゲネオスを返答を聞いた。
「そうですか。私たちは基本的にエルフにしか背中を預けませんでした」
エレミアは遠い目をして窓から外を眺めた。
「しかしそれもこの400年で大きく変わりました。エルフと人間は交わり、共に生活するようになりましたし、ときには共通の敵と戦うこともありました。クレーネからの撤退は私たちの古い部分、悪い部分が出てしまったのかもしれません」
やがて人々が館に集まった。主立った者は玉座の間に入り、入りきらぬ者は館内の別の部屋や館の外に集まった。玉座の間以外ではそれぞれ一人が聞き耳の呪文を唱え、女王の声が聞こえるようにした。
頃や良しとみたエレミアは、玉座から立ち上がり、玉座の間にその声を響かせた。
エレミアはまず、先王がプエルトに救援を求めにいく途上、クラーケンに襲われて命を落としたことを告げた。
その後ノトス陥落の歴史と、クレーネ撤退のことに触れ、皆のこれまでの苦労を労った。ただしここではアクリスについては何も触れなかった。
次に先王とともに失われた王冠が今手元に戻ったことを告げた。
エルフたちは歓喜の声を上げた。その場にいたオレたちにも、人々からの拍手と賛辞が贈られた。
エレミアはまた、現在の籠城の状況を淡々と説明した。敵の作戦、モンスターの種類や数、明日には総攻撃をかけてくるであろうこと。そして……
「したがって明日は先王の弔い合戦となります。皆さま、覚悟なされませ」
「おおおおぉぉぉ」というどよめきが館全体に響き渡った。おそらく館の外でエレミアの声を聞いている人々も同様の反応であったに違いない。
「北の城の雪辱を果たす! これは南の城の戦いです」
エレミアが高らかに宣言した。
人々は初めざわざわとしていた。しかし一人また一人と声を上げ始めた。
「エレミア妃に勝利を!」
「アステイオスの敵を討つぞ!」
「ヴォラス! ヴォラス! ヴォラス!」
人々の歓声はやがて大きくうねり始め、パランクスの城塞中に響き渡った。




