第107話 エルフが鍛えた武器
「ただの人間がいくら『できる』と言ったところで意味がありません。それこそ机上の空論ではありませんか?」
エレミアがマスキロに迫った。
「ふむ、そう思うのも無理はない、しかしこれらはただの人間ではないぞ。そうだ、サルダド、その腰に吊っているものをエルフたちに見せてやれ」
「腰に吊っているもの? これのことか? ……いいのか?」
「構わぬ」
オレはミョルニルを取り出し、体の前に掲げた。
エレミアは驚きの表情を浮かべ、周囲のエルフたちもどよめいた。
「それは、ミョルニル……」
レイモンは思わず言葉を漏らした。
「そのとおり、ミョルニルだ。ミョルニルを素手で持つ者が現れたということは、どういうことか分かるな?」
とマスキロが言った。
「レイモン殿、どういうことです?」
エレミアがレイモンに尋ねた。
「エレミア様、ミョルニルはエルフの手によるものです。とても高名なエルフの。しかし私たちでは手に取ることすらできぬでしょう。エルフが鍛えた武具は持ち手を選びます。この者がミョルニルを使いこなしているということは、目下、この者がミョルニルの正当な所持者であることを表します」
「そうなのですね……」
このやり取りにはオレも混乱した。エルフが鍛えた武具? オレは父親からそんな話は一切聞いていない。せいぜい特殊な能力を持つウォーハンマーといったくらいの情報だ。一体そんな由緒を持つ武器がどうして我が家の地下室に放置されていたのだろうか?
「エレミア様、決してお試しになりますな。くれぐれも」
レイモンはなおも念押しした。エレミアはレイモンがこうも強く言うことに違和感を感じたようだが、ただ「分かりました」と答えた。
エレミアはレイモンの言うことを完全には理解していないと思われた。しかしミョルニルを持とうとして指を全て失ったアクリスの話を聞けば、彼女も大いに納得したに違いない。
「ミョルニルを扱う者が人間に現れるとは……。いや、マスキロ殿、分かりました。確かにあなた方は一騎当千の実力をお持ちだ」
レイモンは素直に認めた。
「エレミア、そなたはどう思うのだ?」
エレミアは答えなかった。簡単に答えを出せる話ではないだろう。実際オレもかなりの不安を持っていた。ゲネオスはエルフに固執しているが、オレやパマーダはそうではない。この城の守りがいかに固く、味方がいかに頼りになろうとも、数の違いが大きすぎた。そしてこの城は守りが固いのと引き換えに、ここから先の逃げ道はほとんどないように感じられた。
「残された時間は短い。モンスターたちは明日の朝には一斉攻撃をかけてくるぞ。もう一日の猶予もないのだ」
マスキロが言葉を継いだ。「明日の朝」という言葉を聞いて、その場にいたエルフたちが再びどよめいた。
しかしエレミアはまだ答えない。オレたちはただエルフの女王の返答を待つしかなかった。




